

先生の油絵
高校の時の美術の男性教師、K先生は、いつも美術室の隣にある美術準備室にこもっていて、授業でさえめったに顔を見せなかった。四十代ぐらいで、背も高い方とは言えず、自信なさそうな気弱な笑みを浮かべて、生徒たちとまともに視線が合うのを恐れているような人だった。...
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成人式のお寿司
今年の成人式の日は一日中大雪になった。高価な着物を準備して待ち望んでいた人たちには気の毒なことだった。 私自身の成人式は、ちょうど大学の後期試験の真っ最中だったので、実家に帰りもせずに試験勉強をしていた。鳥取から上京してきていた友人も帰らなかったので、二夕方高田馬場駅で待ち...
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大雪と親友と宮沢賢治
大雪になりそうな模様だ。雪粒は交差しあいながら、速いとも遅いとも言えない速度で降りつのっている。家々の屋根に、道路に、木々の葉っぱに、早くもうっすらと白く冷たさを乗せている。こんな少し暗い雪の降りはじめには、いつも宮沢賢治の「永訣の朝」の詩句が思い出される。...
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私のニコンFE
自分だけのカメラを持ちたいと思ったのは、大学二年の冬のことだった。先のことが全く見えなくなっていたあの頃、屈託した心を何か別のものに逸らさずにはいられなかったのだ。新宿のカメラ店に何度も出向き、さまざまな機種を仔細に吟味した。専門書で調べもした。大きさ、重さ、形、性能。値段...
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オッドアイホワイト
夜中、窯を焚いて、朝方やっと火を消し止めると、陶芸の先生はそそくさと仕事場を後にした。翌日から一週間、先生は中国へと出かける予定だった。 プレハブの仕事場の中は、窯の熱気がこもっていて、乾いた土の匂いも熱に浮かれて、いつもより濃く立ち上っている。私は窯焚きの緊張から解き放た...
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雨の日の古本屋
今日は朝から雨が降っている。雨のしずくをたたえた紅梅の蕾は、濃く薄く微妙に混ざり合った春の色をにじませている。私の前を歩いている主婦が、子どもが履くみたいな黄色い長靴を履いているというのも、なんとはなしに微笑みを誘われる。農家で飼われている鶏が、どういうわけか真昼間からけた...
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正月まで
クリスマスが終わると、花屋の店先からポインセチアとリースが取り除かれ、代わりに正月用の切り花や鉢植えのミニ門松が並べられる。洋風から和風へ、この時期、町の変わり身は早い。街の雰囲気のままに、お祭り気分に染まっていける人はいい。酒、御馳走、カラオケ・・・少しぐらいはめをはずし...
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いちばんはじめてのものがたり
さいしょにおばけがいました こねこのともだちでした こねこは 「ボールであそんでくるよ」 といいました おかあさんねこは 「五じにはかえっておいで」 といいました おかあさんねこは、こねこがくらくなってもかえってこないので おばけさんちに、むかえにいきました...
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夜に想う
その日は、近くの小学校の校庭で花火大会がある予定だった。しかし、夕方からあいにくの雨模様。これではきっと花火大会は中止だろう。中止になって当たり前なほど雨は濃く降り募っていた。今更子どものようにには花火を期待しはしないが、何年かぶりに大きな打ち上げ花火を、体の底に響かせてや...
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1981年9月19日
夜、部屋の中には陶器の冷たさが充満していた。模様ガラスの向こうに街灯の明かりが濡れたように滲んでいる。目の前に置いた素焼きの大壺の肌は、目の粗いやすりのように、鉛筆の芯を削っていった。壺の内側へと響きをこもらせて、限られた陶彩をのせるために、線はできるだけ素早く簡略でなけれ...
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