読了時間: 2分
大雪と親友と宮沢賢治
大雪になりそうな模様だ。雪粒は交差しあいながら、速いとも遅いとも言えない速度で降りつのっている。家々の屋根に、道路に、木々の葉っぱに、早くもうっすらと白く冷たさを乗せている。こんな少し暗い雪の降りはじめには、いつも宮沢賢治の「永訣の朝」の詩句が思い出される。...
閲覧数:43回
読了時間: 3分
私のニコンFE
自分だけのカメラを持ちたいと思ったのは、大学二年の冬のことだった。先のことが全く見えなくなっていたあの頃、屈託した心を何か別のものに逸らさずにはいられなかったのだ。新宿のカメラ店に何度も出向き、さまざまな機種を仔細に吟味した。専門書で調べもした。大きさ、重さ、形、性能。値段...
閲覧数:40回
読了時間: 4分
オッドアイホワイト
夜中、窯を焚いて、朝方やっと火を消し止めると、陶芸の先生はそそくさと仕事場を後にした。翌日から一週間、先生は中国へと出かける予定だった。 プレハブの仕事場の中は、窯の熱気がこもっていて、乾いた土の匂いも熱に浮かれて、いつもより濃く立ち上っている。私は窯焚きの緊張から解き放た...
閲覧数:11回
読了時間: 3分
雨の日の古本屋
今日は朝から雨が降っている。雨のしずくをたたえた紅梅の蕾は、濃く薄く微妙に混ざり合った春の色をにじませている。私の前を歩いている主婦が、子どもが履くみたいな黄色い長靴を履いているというのも、なんとはなしに微笑みを誘われる。農家で飼われている鶏が、どういうわけか真昼間からけた...
閲覧数:15回
読了時間: 1分
正月まで
クリスマスが終わると、花屋の店先からポインセチアとリースが取り除かれ、代わりに正月用の切り花や鉢植えのミニ門松が並べられる。洋風から和風へ、この時期、町の変わり身は早い。街の雰囲気のままに、お祭り気分に染まっていける人はいい。酒、御馳走、カラオケ・・・少しぐらいはめをはずし...
閲覧数:25回
読了時間: 9分
いちばんはじめてのものがたり
さいしょにおばけがいました こねこのともだちでした こねこは 「ボールであそんでくるよ」 といいました おかあさんねこは 「五じにはかえっておいで」 といいました おかあさんねこは、こねこがくらくなってもかえってこないので おばけさんちに、むかえにいきました...
閲覧数:15回
読了時間: 5分
夜に想う
その日は、近くの小学校の校庭で花火大会がある予定だった。しかし、夕方からあいにくの雨模様。これではきっと花火大会は中止だろう。中止になって当たり前なほど雨は濃く降り募っていた。今更子どものようにには花火を期待しはしないが、何年かぶりに大きな打ち上げ花火を、体の底に響かせてや...
閲覧数:25回
読了時間: 2分
1981年9月19日
夜、部屋の中には陶器の冷たさが充満していた。模様ガラスの向こうに街灯の明かりが濡れたように滲んでいる。目の前に置いた素焼きの大壺の肌は、目の粗いやすりのように、鉛筆の芯を削っていった。壺の内側へと響きをこもらせて、限られた陶彩をのせるために、線はできるだけ素早く簡略でなけれ...
閲覧数:23回
読了時間: 5分
ターくん
朝から二台の大型トラックがターくんの家の前に止まっている。今日、ターくんの家は取り壊されるのだ。 ターくんの家族が小田原に引っ越していったのは、ちょうど一年前の夏休み。引っ越しの二日前にご両親が挨拶にみえて、次の日には慌ただしく荷造りをしていた。あまりに急な引っ越しに、いつ...
閲覧数:16回
読了時間: 3分
夏の終わりに
夏休みももうすぐ終わろうとしていたある夕方のことだった。家のすぐ前にある団地は、お祭りの準備でざわめいていて、いくつも吊り下げられている提灯には、華やかな色とりどりの明かりがともっていた。いつもは閑散としている団地の広場は、屋台の準備に走り回る人でにぎやかだ。...
閲覧数:22回