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お別れの電話


「もうお会いすることもないでしょうが」と、涙声でかかってきたあなたからの電話。

 美しい写真を撮るあなたの展覧会に、私は3度行き、あなたはその都度丁寧に写真の説明をしてくれた。広場での太極拳の練習でも、やさしい笑顔とユーモアで、周りを明るく湧き立たせていた。シニアのファッションショーのイベントにも出て、楽し気にその様子を語っていたあなた。

 きっと出会ったときにはもう、ひそかな病があなたの体の奥に発症していた。

 あなたが腰痛で太極拳の練習を休み、しばらく会えなかった前の年、私は姑と実母の大病の対応で疲れ果て、あなたのことをすっかり忘れていた。

 あなたはその間、重大な病が発見され死の恐怖にずっとおびえ続けていたのだろう。並行した時間の中で、互いの現状を知ることのできない悲しさ。

 彼女は最後に決死の思いでお別れの電話をしてくれたのだ。私ばかりではなく、一人ひとり、友人たちに最後の電話をかけていたのだろう。6年前の夏の午後のこと。

 ふくよかで若々しかったあなたの姿ばかりが思い出される。あの時、もう私からは電話を

するのもはばかられて、どうしたらあなたを励ませるのかわからなかった。

 親の介護とか、私の苦しみなんて命の問題に比べたら何のことはなかった。

 ただただあなたからの電話に衝撃を受けた。あなたとその命の行く末を思い、永遠などないことを思い知らされた。

 友人たちに最後のさよならを告げて回る。その時の彼女の気持ちを思うと今でもたまらない。互いに涙をこらえながら、あんなに悲しいさよならは初めてだった。







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