私の好きだった絵本
昔私が持っていた絵本のうち何冊かは子どもが読むものとは思われないほどのリアルで美麗な絵柄だった。
特に覚えているのは「リア王」や「人魚姫」だ。
「リア王」を子供向きの絵本にしたことからして驚きだ。鎧を着た軍勢たち。荒野をさまようリア王。まごころを捧げたコーディリアの悲劇的な最期。その絵本はちゃんと中世の西洋を感じさせてくれた。どのページの絵も重厚な油絵のように色彩ゆたかに緻密に描かれていた。
リア王の愚かさ、コーネリアの誠実だが言葉足らずなところ、姉たちのエゴや冷酷。人間の暗黒面をあますところなく描いていた。それは本気の画家の画力でなくては描き得なかったものだった。
「人魚姫」に至っては、大人の恋愛の酷さをシビアに描いているので、こちらも「リア王」同様本来絵本向きではない。海から上がって足を得た人魚姫のなまなましい裸体も大胆に描かれていた。子どもながらにそのページは気恥ずかしかった。しかしリアルな生身の人間の姿として描いてくれていたからこそ、愛することや生きることの深い意味を真剣に問いかけてくれているような気がした。
人魚姫の愛がかなわず、王子を殺さなかったら自分が泡となって消え去る運命。その時の究極の選択の後に、神に許されて魂を得て天に昇っていく姿には感動した。そのページは崇高な宗教画のようだった。
古典的名作は内容的にも絵柄的にも絵本にするのは難しい。今は時流に即した身近な話題の創作絵本が主流だ。それもいいだろう。一方で、萌え絵や漫画のライトなタッチの絵本は、内容すらチープに思えてきて残念だ。
そのような絵本も子供向きに監修され、十分楽しめるものではあるが、生と死を深く穿つ古典的名作にチャレンジしてくれる作品がもっとあってもいいのではないかと思う。子どもであっても人間とは何者なのかを真面目に考える時間があっていい。
私は今でも、子どもを1個の人間として尊重し、手を抜かずに渾身の力で描いてくれたあれらの絵本を忘れられずにいるのである。

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