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いちばんはじめてのものがたり


さいしょにおばけがいました

こねこのともだちでした

こねこは

「ボールであそんでくるよ」

といいました

おかあさんねこは

「五じにはかえっておいで」

といいました

おかあさんねこは、こねこがくらくなってもかえってこないので

おばけさんちに、むかえにいきました

おかあさんねこといれちがいに

おばけさんが、こねこさんをおくってきてくれました

こねこは、おかあさんねこがうちにいないので

おどろかそうとおもってかくれていました

でもかえってきたおかあさんねこは、きづいてくれません

こねこは、おもらしをしてしまいました

おもらしがとまらないので

みずたまりになってしまいました

そのみずたまりはマンホールにながれて

マンホールがあふれてしまいました

さかながいっぴき、おうちのなかにはいってきました

こねことおかあさんねこは、

そのさかなをやいてたべてしまいました

ドラえもんのスモールライトで

ちゃわんとしゃもじをちいさくして

じぶんたちもちいさくなって

おうちのなかでふねをこぎました




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落っこちないで おじいちゃん



今年のお盆はいつものお盆とは違います。それは、去年お空の世界に行ってしまったおじいちゃんが、初めてきゅうりのお馬に乗って家に帰ってくるのです。

 去年の春まで、おじいちゃんはとても元気に会社に行っていたのに、急に病気になって入院してまもなく、さよならすることになってしまいました。

 おじいちゃんはいつも優しくて、おまつりがあるとアンパンマンのお面や綿あめを買ってくれたり、旅行に行くとかわいいハンカチやお菓子のおみやげを買ってきてくれました。

 おじいちゃんはいつも、

「しいちゃんは頭がいいから、きっとえらい人になるよ。政治家になるかもしれない」

と、ほめてくれました。

 おじいちゃんはおばちゃんとも、いつも仲良く自転車で買い物に出かけたりしていました。機嫌が良い時には鼻歌を歌っていたし、日曜日には窓ガラスを一生懸命磨いていたおじいちゃん。

 しいちゃんはおじいちゃんが入院している病院に七夕のお飾りや、小さな布のお人形を作って持っていってあげました。おじいちゃんはとても喜んで、

「これはうちの孫が作ってくれたんですよ。上手でしょう」

と、看護師さんに見せびらかしていました。その他にもいろいろな思い出があります。これからもたくさんおじいちゃんと遊ぼうと思ったのに、急にお空の人が、

「もうそろそろこっちへ来てください」

と、呼びにきたのです。こんなに早くお空に行ってしまうなんて、誰も想像できませんでした。

 おじいちゃんが白い布を顔の上にかけて家に帰ってきた時、

「ここにいるおじいちゃんはもうぬけがらで、本当のおじいちゃんは、お空の上に行ってしまったんだよ」

と、おかあさんは悲しそうに言いました。

 お空の人になってしまったおじいちゃんが、今年のお盆に帰ってきます。

お仏壇にはざるに入ったブドウ、ナス、キュウリ、リンゴなどが供えられています。おだんごもおばあちゃんが作りました。小さな小さな食器に、おいなりさんや煮物がちょっとずつ置かれています。

「おじいちゃん、これ食べるの?」

「そう、食べるんだよ」

おばあちゃんはにっこりほほえみました。

あれから一年たったけれど、おばあちゃんが夜よく泣いているのを、しいちゃんは知っています。泣くのは子どもだけだと思っていたのに、大人も悲しいときは泣くのだと、しいちゃんは知りました。

 夕方になっておばあちゃんは、ちょうちんに灯をともしました。それはほんのり橙色でとてもやわらかな光でした。

「きれいだね。おじいちゃん家間違えないで来てくれるかな」

「きっと大丈夫。ちゃんと間違わないで来てくれるわよ」

しいちゃんとお母さんはしばらく鴨居に掛けられたちょうちんを黙って見上げていました。

 おばあちゃんは玄関のドアを開けて外にナスの牛ととキュウリの馬を置きました。お線香をつけてしいちゃんとおばあちゃんとお母さんはしゃがんだまま、

「どうぞ来てください」

と、お祈りしました。

 静かな夕暮れです。空にはふわりと大きな雲が少し紫色に染まりながら浮かんでいます。

「さあ、おじいちゃんがお馬に乗ったよ。しいちゃん、お仏壇に運んでちょうだい」

おばあちゃんがしいちゃんにキュウリの馬を差し出しました。

しいちゃんは、おじいちゃんが乗っているんだと思ってドキドキしました。お母さんもすぐ隣でナスの牛を持っています。

 しいちゃんは両手でそうっと持って、ゆっくりとお仏壇のほうへ歩き出しました。お馬はずしりと重いような気がしました。

 しいちゃんがあんまりゆっくり歩いているから、お母さんとちょっとぶつかってしまいました。しいちゃんは口をとがらせました。

「急ぐとおじいちゃん落っこちちゃうよ」

「そうだったね。ごめんごめん」

お母さんは真面目な顔で謝りました。

お盆の間、おじいちゃんは家にいてくれるそうです。おじいちゃんが来てくれているのに、おばあちゃんはやっぱり悲しそうにお庭のほうをぼうっと見ていたりします。

 きれいな白いお花が飾られているお仏壇には、お母さんやおばあちゃんが作ったままごとみたいなごはんが並べられています。

「おじいちゃん、こんなちょっとでお腹いっぱいになるのかなあ」

と、しいちゃんは思いました。お仏壇の上のキュウリのお馬にのれるんだからきっとおじいちゃんの体はとっても小さくなっちゃったんだね。

 夜、みんなでお線香をあげる時、しいちゃんはロウソクの炎がふうっと揺れたような気がしました。おじいちゃん? 上の方に掛っているおじいちゃんの写真を見ると、いつもより笑っているみたいです。

「おじいちゃん、かくれんぼしてるんだね」

小さな小さなおじいちゃん、久し振りに帰ってきた家の中を小さな体であちこち歩き回っているの?

 その夜しいちゃんは夢をみました。嫁の中でおじいちゃんは満開の藤の花の下で一人で碁を指していました。

「おじいちゃん!!」

「やあ、しいちゃん。元気に幼稚園に行ってるかい?」

振り向いたおじいちゃんは一年前と同じように眼鏡の奥の目を細くしてにこにこ笑っていました。

「うん。元気だよ。おじいちゃんは? ずっとお空で何してたの?」

「そうだなあ。いろんなことをしてたよ。お空を上手に飛ぶ練習もいっぱいしてたよ。飛ぶのって気持ちいいんだよ。随分うまくなったんだけど‥‥・そうだ。おじいちゃんの手につかまって、しいちゃんも一緒に飛んでみるかい?」

「うん! 飛んでみたい! こわくない?」

おじいちゃんは笑いながらしいちゃんの手をつかみました。その手は暖かくも冷たくもなくて空気みたいでした。

「いくよ!」

ふわりと二人の体は浮かびました。

しいちゃんの家がどんどん小さくなりました。灰色の屋根が真下に見えます。お友だちのトモちゃんちやアサミちゃんちも小さく見えます。緑色の梨畑があっちこっちに、そして、しいちゃんが通っている幼稚園やよくお買い物に行くスパーも見えます。

「すごーい」

 自分が住んでいる街を上から見たのははじめてです。まるでおもちゃの街みたいです。高く上るにつれて、しいちゃんの行ったことのない街まで見えてきました。

おじいちゃんはふわりふわりと雲のすぐ下まで飛んでいきました。手を伸ばせば雲にさわれそうです。

「ここまでだよ。しいちゃんが来れるのは。この雲の上におじいちゃんは住んでいるんだ」

風がヒューヒューイッテ、スカートがひらひらしています。ひんやりした雲がさぁっとしいちゃんの顔のほうに流れてきます。舌を出してなめてみたけれど、それはやっぱりわたあめではありませんでした。

「それじゃあ、戻るよ」

今度は頭を下にして降りていきます、なんだか上る時よりスピードが早いようです。

おじいちゃんは、

「実をいうとまだ下に降りるのは得意じゃないんだ。よおくおじいちゃんの手を握っていなさいよ」

おじいちゃんは真剣な顔で飛んでいます。しいちゃんはちょっとこわいような気がしましたが、しっかりとおじいちゃんの手を握って、すうっと下に降りていきました。

 みるみる地面が近くなり、あっ、こわい、と思った瞬間、ドサッと藤棚の上に落ちました。

「いてててて、しまった。また失敗しちゃった。しいちゃん、大丈夫だった?」

おじいちゃんはおしりをさすりながら済まなそうにききました。しいちゃんは柔らかい葉っぱの上に落ちたので、どこも痛くはありませんでした。

「大丈夫だったよ。ありがとう、おじいちゃん。お空、おもしろかったよ」

「そうか。よかったよかった。そうしておじいちゃんは遠い遠い目をして言いました。

「しいちゃん、おばあちゃんに伝えてくれないか。もう悲しまないで楽しく暮らしてねって。会えないけど、いつも見守ってるからって」

おじいちゃんはにっこり笑いました。

「それじゃあ、ごはんでもごちそうになってくるよ。またね。しいちゃん」

そう言っておじいちゃんはおしりをさすりさすり家の中に入ると、お仏壇のほうにゆっくりと歩いていきました。そこで目が覚めました。


 次の日、しいちゃんが外に出てみると、庭の藤棚に季節外れの藤の花が一房咲いていました。

「まあ、今頃咲くなんて。きっとおじいちゃんが咲かせてくれたんだね」

おばあちゃんは藤の花をそうっとなでました。

しいちゃんは昨日の夢のことを思い出して、おばちゃんのことをもっともっと大事にしようと思いました。

 お盆の三日間が過ぎ、おじいちゃんが帰る日が来ました。夜遅くキュウリの馬とナスの牛をそうっと玄関の外まで持っていきました。お線香をつけました。今度はお父さんもいます。きれいなちょうちんも燃やしてしまうのだそうです。しいちゃんはもったいないなと思いました。だけどいつまでもちょうちんをつけておいたら、おじいちゃんはお盆が終わったことに気付かないで、お空の世界に帰れなくなってしまうかもしれません。 

 お父さんは黙ってしゃがんでちょうちんの外側に火をつけました。ちょうちんは思いがけないほど大きな炎を出してボーッと燃え上がり、みんなの顔を照らし出しました。

 しいちゃんははしゃぎたい気分だったけれど、おばあちゃんも、お父さんも、お母さんも少し寂しいい顔をして炎を見ているので、しいちゃんもがまんして黙っていました。

「おじいちゃん、またお空に帰っちゃうの?」

「そうだよ。来年のお盆までお空で暮らすの。お空でお仕事したり、ごはん食べたり、お風呂に入ったり、きっとしているよ」

お母さんは微笑みながら言いました。

(それからお空を飛ぶ練習も)

しいちゃんは心の中で思いました。

炎が消えたあとあたりは真っ暗になりました。みんなは立ち上がってお空の方を見上げました。お父さんの眼鏡がキラリと光りました。

 しいちゃんはナスのお牛に乗って夜空をゆっくりゆっくりのぼっていくおじいちゃんの後ろ姿を確かに見たと思いました。

落っこちないように必死にナスのお牛にしがみつきながらちょっと後ろを振り向いて、

「また来るよ。ありがとう」

と、にっこり笑って言うおじいちゃんの声を聞いたような気がしました。

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