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成人式のお寿司


  今年の成人式の日は一日中大雪になった。高価な着物を準備して待ち望んでいた人たちには気の毒なことだった。

 私自身の成人式は、ちょうど大学の後期試験の真っ最中だったので、実家に帰りもせずに試験勉強をしていた。鳥取から上京してきていた友人も帰らなかったので、二夕方高田馬場駅で待ち合わせて、お寿司などを食べてささやかなお祝いをした。

 就職のこと、恋人のこと、試験勉強の進み具合、サークル活動など、学生である身の二十歳には、それなりの悩みや抱負もあって話は尽きなかった。

 さてそのお寿司だが、『並』を頼んだのに間違って『上』が来てしまい、二人それを知らずに食べてしまった後に、思っていたより高額を請求されるというハプニングがあった。

 私は、仕方ない、食べてしまったのだから払うしかないというスタンスでいたのに対して、友人は断固として抗議して店主に立ち向かった。

「私たちは『並』を注文したのであって、間違えたのはあなた方なのだから、私たちは『並』の料金しか払う義務はない」

店主は、

「しかし、確かに『上』と聞いたんだけど、そうだよな?」

などと、アルバイトの女の子相手になおもぶつぶつ言っていたが、友人の剣幕に気圧されてか、しぶしぶ『並』の料金で納得した。

 店を出てから、二人大きく息をついて顔を見合わせて笑い合った。

「すごいなあ。よく言ったねえ。スカっとしたよ」

「こういう時はちゃんと戦わなくちゃ。向こうが間違ったんだから」

 そうだよなあ、それくらい強くなくちゃなあ、もう二十歳なんだし。

 夕暮れの高田馬場駅に向かって、雑踏の中を妙に誇り高く闊歩しながら、『並』で押し切った成人式に、思わずもう一度ぷっと噴き出しそうになるふたりだった。

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