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梨の畑


 我が家の近隣は多摩川梨の産地で、梨畑も数多く点在している。実りのころになると、遠くから梨を買いにやってくる家族連れで、町はひととき活気づく。

 そして、梨畑との関連で、セミの数においてもこの地域は特別だと言わなくてはならないだろう。最盛期の鳴き声は地響きにも近い。;音と音が重なり、濃密なバリヤを作っているかのようだ。

 わが子が小さかったころ、セミを捕ることだけでも楽しく夏の一日を過ごすことができた。片っ端からセミの抜け殻を拾っていたのも、子どもが、というより私だったかもしれない。

 セミも、梨畑が減るとともに激減してしまった。最近、いやに夏が静かになったと感じる。虫取り網を持ってうろつく子どもたちの姿も見かけなくなった。

 知らぬ間にこうして失われていく。町も人も生活も時とともに変わっていく。あんなにもセミ捕りに興じていた私も子どもも、どうしたことだろう、今は遠い記憶の中にしかいないのだ。

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