ヒナの死
三羽のヒナのうち二羽はすぐに死んでしまった。残った一羽はぐったり横たわったまま、かろうじてあえぐような呼吸を続けていた。少年はそっとてのひらにヒナを乗せる。赤黒く素裸で、首の根もぐらぐらと危うい。少しひんやりとしている。まだ親鳥にあたためられていなくてはならない生まれたてのヒナだ。
「これは僕のヒナ。きっと助けてあげる」
少年はてのひらを卵のかたちにしてやさしく包み込む。
翼になるべき突起と背骨のあたりの皮膚には、黒い点々がついていた。苦しげにひきつる細い肋骨の下に内臓が透けて見えた。丸く黄色っぽくぱんぱんにふくれたおなか。肝臓の赤。呼吸のたびに内臓はふくらみ、しぼんだ。眼球の黒だけが顔の両側に異様に大きい。ささくれほどの痛々しい足指には、もうかすかな爪さえ生えていた。
「かわいい」
しかしそれは十分にグロテスクなしろものだ。生きる可能性は万にひとつもない。少年はヒナをてのひらで温め続ける。てのひらにかすかな拍動が伝わってくる。見かねて母親はゆで卵の黄身を水に溶かして給餌をこころみる。
二日目、体温はしだいに安定しつつあるように思えた。エサをほしがって首を伸ばし、大口をあける仕草も時折見せた。エサを求めるときだけ、首を強くもたげた。血色も鮮やかになり、あるいは・・・という期待を誰もが抱きかけた。少年は息をこらして見守り続けた。
三日の間、どれだけ真面目な看護が尽くされたことか。それは、ひとしずくの水が喉につまったためなのか、呼吸の筋肉が疲れ切ってしまったのか、小さなヒナは、(もう、このくらいで、じゅうぶん・・・)というように、三日後に突然息をするのをやめてしまった。霜柱のような肋骨は、二度と押し上げられることはなかった。全身が黄ばんでいった。首はねじれて仰向いた。ヒナはふいに飛び去ってしまった。
それが今年の夏、少年が出会ったひとつの死だ。