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鏑木詩集(4)                   鏑木恵子

中期の作品です。

 

 

 

半夏生の光

 

紫陽花が露を湛える

明けていく朝を

無限の諧調で染め上げるために

くちなしが白をまとう

おびただしい埋葬を

かぐわしい祝祭に変えるために

 

空を映したフロントガラスに

ゆっくりと淡い海月が這い上がる

梅雨の晴れ間を待ちかねて

どこの物干し竿にも

たくさんの昨日がぶら下がる

 

すずらんが小さくうつむく

こぼれ続ける記憶を

丸いグラスで受け止めるために

花菖蒲が肩をそびやかす

しおれた傘を

鮮やかな青で塗り直すために

 

開いたてのひらに

浮かび上がる蜘蛛の巣のあやとり

そこに咲く霧雨のような花々

幾たびも破られて

 

こまやかな笹の葉がそよぐ

短冊に書かれた送別の作法

かたつむりはさかのぼる

銀色の天の川につながろうとして

 

ゆらめく今日を抱きとめる力は

一息一息の重なりの中に

 

曲がり角ごとに溶けた水たまり

虹の油膜を乱しながら

歩き通す半夏生の小道

破られたものは幾たびも繕われて

明日に待ち受ける明日咲く花々 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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