読了時間: 8分
第39詩集 かわいらしい足(2)
桜咲く夜に 寝たきりの人が 何度も何度もブザーを押して 眠剤を要求してくる 眠りたいのですね いつもいつも 眠っていたいのですね 夕闇を恐れ 今宵の新月を恐れ 瞼の裏側の光を恐れ 眠るための毒を 待ちかねて おいしそうに口に含み ゆるみはじめた桜が...
読了時間: 19分
第39詩集 かわいらしい足(1)
かわいらしい足 冬になって 傾いた陽射しが 部屋の中にまで 入ってくるようになった 朝 おむつを替えながら 「足だけでも 日光浴するといいですね」と つぶやくともなしに つぶやいたら 昼 ベッドの布団の端から 陽射しに向けて 小さなはだしの両足が...
読了時間: 10分
第38詩集 救うための日々と時間(2)
介護認定 年に1度の介護認定調査員が来た 姑はいつも私やケアマネの問いかけに 首を横に振るか縦に振るかしかせず 何もしゃべらずにぼぅっとしているのだが 今日の調査員には 名前 生年月日 年齢 住所 今日の日付 季節 日頃の様子などを ペラペラと調子よく答えていた ...
読了時間: 17分
第38詩集 救うための日々と時間(1)
雨が続く7月 記録的な大雨だそうで 九州の方は土砂崩れなどで今年も大変らしい 私の家は崖が近くにあるわけでもないが 多摩川が近いと言えば近いので 決壊したら水が押し寄せてくることもあるかもしれない 避難しろと言われたら まず困るのはほとんど寝たきりの姑の処遇...
読了時間: 14分
第37詩集 自分ポートフォリオ
その先 十二月の商店街 大きなケーキの包みを 提げて帰る人 その先にある笑顔 駅からの上り道 黒い服を着て 斎場に向かう人 その先にある涙 待ち受けているものは そうかもしれないし そうではないかもしれない 歩みの先に 野良猫のくしゃみ 思っていることと...
読了時間: 11分
第36詩集 クロコダイルの夜(2)
父はどこに 人は亡くなるとどこへ行くのか 位牌の中とも言うけれど 位牌の中に魂が入っているとは 正直思えない 戒名に住職の念が入っているかどうかも あやしいものだ しかし信じているふりをするのが 大人の礼儀だ 墓参りはするが 墓の中にいるとも思わない...
読了時間: 15分
第36詩集 クロコダイルの夜(1)
クロコダイルの夜 親戚の人のお通夜があったが 私はその人をよく知らないので お線香をあげて合掌しても 特に感情が揺れ動くことなく 家に帰り軽く食事をした後 録画しておいたワニ映画を楽しんだりして いつも通りに夜を過ごした ワニは異常に巨大で 人々はサバイバル能力に乏しく...
読了時間: 8分
第27詩集 野良猫だらけの町に住みたい(2)
白髪発見 あらあらこんなところに白髪が そう言って美容院の人が ハサミで根元付近からぷちっと切る 白髪ってなぜかピンと立ってるんですよね どなたの白髪もそうです 不思議ですね 白髪だからといって死んでいるわけでも 瀕死の植物状態でもないのだろう 赤ちゃんの生えたての髪の毛も...
読了時間: 10分
第27詩集 野良猫だらけの町に住みたい
泰山木 装飾品をすべてはずし 化粧もすべて落とし 命の粋の限りを尽くして たったひとりで 赤ん坊を生み出すとき すべての女性は 朝日を浴びた 真っ白な泰山木の花のようである --------------------------------------------------...
読了時間: 10分
第26詩集 虫の触覚(2)
同い年 夫と私は同い年で 学年も一緒で 最後は学校も一緒だったから 何かと話は合うのだが 給食のミルクが 脱脂粉乳だったか牛乳だったかで どうも意見が分かれる 川崎で育った彼と 宇都宮で育った私 彼が銀色のミルク缶に入った あの生暖かい脱脂粉乳を経験していないとは!...