読了時間: 10分
第26詩集 虫の触覚
本当のところ 神は 人が背負いきれない荷は負わせないというけれど 時々 そうではないだろうと思う テレビニュースや新聞記事を見ていて ひとりの人間が負う罪としては また耐えなくてはいけない運命としては あまりに苛酷すぎるのではないかと思うことがある 仏教を熱心に説く人に...
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第25詩集 神のように(2)
春一番 ビルの外に出ようとして 強風が吹いているらしいのが ガラスドアの向こうに見てとれた まだ長いコートを着ている女性の 裾が大きく翻っている 髪がさかさまに舞い踊っている 「そんなことはもう超越している」が 以前の私の口癖だった...
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第25詩集 神のように
もうすぐ春 すべて葉が落ちて やっと本当の相が見えてくる 傷のない虫眼鏡で 広げてみた世界 しゃがみこんだ足もとで 誰にも知られずに 冬を越していく 常緑の草 比べることで 保たれる正気もあり 崩れていく自我もある 抱いた猫は 気づいているだろうか...
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第21詩集 笑顔の意味
雨上がりの朝 朝 サンダルが冷たかった 金木犀が甘く誘っているのに 黄色い蝶が空高く逃げて行こうとしているのが 不思議だった 赤い首輪をした黒い猫が 湿った道路の上に座っている その体は絹布のように冷たい その虹彩は鋭く収縮している 知らぬ間に見失ったものの名前を...
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第19詩集 FRAGILE
世界中の空 あんなにも賑やかに しゃべり続けている 晴れた明るい朝の高くで 啼き交わす声の調子は 挨拶と報告と喜びと単なる鼻歌と 飛び去って散り散りに 今日も一日の仕事は始まる 甘えた声のカラス アンテナの上からきちんと応答する声 夜の意味も朝の意味もまるで知らなくても...
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第18詩集 無駄な一日
無駄な一日 たとえば 計算されつくした 一分の隙も無駄もない一日が もしあったとして 私はそこから 窮屈な居心地の悪さを感じるばかりだろう 無数の雨粒が 田んぼの水面を 鈴のように鳴らすとき 私は両手をからっぽにして 思わず 受け止めるだろう...
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第17詩集 人知れず(2)
自然教室 いつも問題をいっぱい抱えて うるさく帰ってくるきみが 帰ってこない夜は 静かで落ち着いていて ゆったりと穏やかだ ひがまなくていい 「愛する」の範疇には 確かに入っているから どんなに叱った日でさえ このままいなくなってしまえばいいとは 一度も思わなかった 今頃は...
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第17詩集 人知れず
点 今私は どこにいて どこに行こうとしているのか プラタナス並木に日は当たり ひらひらと葉は揺れる つまりそれは 秋の陽射しではあるけれど 季節の定義さえ疑わしくなるような 瞬間の覚醒の中で 私は突然はるか上空に浮かび上がり 信号の手前で立ち止まっている自分の姿を見下す...
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第29詩集 仏もいつか(2)
二センチ傾いて この間の大地震で 地球は地軸を中心にぐらぐらと揺れ そのせいで地軸の位置が二センチほどずれ 一日の長さが百万分の三秒変化したそうだ 2004年12月30日の小さな新聞記事によると そうして私は正月に向けて煮物を作り やり残した換気扇の掃除も...
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12のこころ
January 土曜日の午後に はじめての英単語を ノートに何度も何度も練習した どれほどのことを覚えなくてはいけないのか まわる月のめぐりに 次々と追い立てられながら --------------------------------- February...