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第27詩集 野良猫だらけの町に住みたい(2)

白髪発見


あらあらこんなところに白髪が

そう言って美容院の人が

ハサミで根元付近からぷちっと切る

白髪ってなぜかピンと立ってるんですよね

どなたの白髪もそうです

不思議ですね

白髪だからといって死んでいるわけでも

瀕死の植物状態でもないのだろう

赤ちゃんの生えたての髪の毛も

静電気で持ち上げたかのように

ふわりと立っていたりする

かよわいほどの細さなのに

一本の髪の毛ですら

これほどまでの生命力

自然に落ちてしまうまでは

れっきとした体の一部

これからは白髪をみつけても

敬意を表して

切らないでおこう

と言っても

いちいち切っていられないほど

たくさんあるので

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無口派

手を上げて発言するのが

どうしても苦手な人間も確実にいるのであって

昨今の学校では

発言しないといい内申点がもらえないそうなのだが

よくしゃべる人に比べて

心で思うことの多い人間が

劣っているということは

絶対にないのである

むしろしやべり過ぎる人間に閉口したことが

私には何度もある

音楽や文学や絵画の表現を深めるためには

軽々としたおしゃべりは

むしろ禁物だ

心に語らせるためには

あふれるすれすれまで

思いをこらえなくてはいけない

しゃべらない人間の果たす役割は

計り知れないのである

その辺のところ

学校の先生たちはどう思っているのだろう

しゃべらない 手をあげない イコール 何も考えていない とでも?

それを鑑みてさえ にぎやかに渉り歩く人間を上とするか

世俗的には確かにそうなんだろうけれど

確かに目立った方が勝ちなのだろうが

私はいつも世俗とは逆のものを大切に思う

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約束を守らない人

約束を守らない人について考えている

締め切りはもうとっくに過ぎている

きっと今あの人は

約束を守るどころではない状態にいるのだ

きっと宇宙人が家の周りをうろついているのだ

借金取りに責められているのだ

強盗犯に家を乗っ取られているのだ

ペットが死にかけているのだ

水洗トイレが壊れて水びたしなのだ

私にそんな想像をされたくなかったら

さっさと約束を守るように

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一枚の写真


赤ん坊の私を

おさげ髪の少女が

ほほえみながら

抱っこしてくれている

少女は

私のいとこで

私を何度も抱っこしに来てくれたという

私は少女の腕の中で

目をパチパチしたり

にっと笑ったり

泣き出してしまったり

手をばたつかせたりしていただろう

少女は

「かわいい」とか

「重いね」とか

「髪の毛が立ってる」とか言って

くすくす笑っていただろう

私は何も覚えていない

大きくなってからも

少女とは会っていない

「あつこさん」という名前しかしらない

あつこさんは

今年の春

五十いくつかで亡くなったという

あの白黒写真の少女だった人

死者となった自由さで

また私を抱きしめに来てはくれないものか

「まあ あの赤ちゃんが」と

驚き笑いながら

また私にやさしく触れてほしい

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多摩川の土手で

多摩川の土手の草むらの中で

もう鳴いている虫がいる

秋の声で 真昼に

昔 意地悪をしたことを思い出した

こんなに遠く過ぎてしまっているのに

秋空のようにきれいなつもりでいた

黒い鳥を抱くこともあるのに

緑の草の中に分け入っていけば

虫はふっと口をつぐむだろう

私の存在とは

そういうものだ

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毛玉

ふかふかした手ざわりの

毛玉のような髪飾りを

手に取り

順番に触りあいながら

皆が

等しく思い出してしまう猫がいる

感覚をつなげてくれる何か

それは思いがけない形で存在する

快さにしても

不快感にしても

落ち葉を丹念に掃き清める朝

見上げた空に同じ雲を見て

夢とかいうもののはかない行方を

等しくぼんやりと案じている

乾いた落ち葉に

背中から倒れ込む感覚

そんな感覚を共有する誰かの気配を

不意にすぐ近くに

感じたりするのだ

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真鶴の喫茶店にて


あなたがたのためにと

初老の書家が一枚の色紙に

竹の絵筆で一文字書いてくれた

あまりに達筆すぎてどうにも読めず

これは何と書いてあるのかな

雲かな雪かなとひそひそ話

書家は微笑む

それは「愛」と書いてあります

愛か

いつもそこら辺にありそうで

うっかりするとすぐに失くしてしまうもの

四十過ぎの夫婦が

大真面目な愛の字をもらって

お互い照れ笑いを浮かべている

額でも買って家のどこかに飾っておこうか

きっと子どもたちも

雲とか雪とか読んでしまうだろうね

喫茶店の窓からは

海の景色

磯遊びの家族連れがあちこちで

岩場のたまり水を覗きこんでいる

黄色いバケツの中に

この世の宝物のすべてを集めて

遠くはしゃぐ声さえ聞こえてきそうだ

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一羽の鳩

夏の終りのある日

ベランダに一羽の鳩が来て

うろうろと手すりの上を歩いている

庭にある藤棚に巣を作ろうとして

小枝をくわえては運び上げ

落としては拾い上げている

次の日には

巣がどうやらできていて

一羽の鳩がその上に座っている

すでに卵は産み落とされている模様

もうこのあたりに猫はいないから

一応ここは安全

また次の日も

洗濯物を干すついでに

こっそり巣の方を見上げてみると

一羽の鳩がちんまり座っている

君は妻の方か 夫の方か

エサはちゃんと食べに行っているのか

最初から最後まで

ひとりぼっちじゃないだろうな

そんなことが他人事ながら心配だ


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まわりがどんなに壊れていても

まわりがどんなに壊れていても

幸せなことに私はまだ大丈夫だ

と思っていられるうちが華

なにものかに「助けて」と言いたいときもある

思っていても特に変わり映えがしないので

仕方なしに自分で歩いていく

動くことだ

もがいて怒鳴ってみることだ

それでどうにもならないことは 更に

別のアプローチをすべきことなのだ

動いて流れている限り

大丈夫

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現代詩とは

私は現代詩を書く詩人ではないので

「・・・のように」という言い方も平気でする

隠喩暗喩にこだわって

何を言っているのか

もはや全くわからないレベルの詩には

はっきりと「わからないんだけど」と言いたいが

それを言ってしまったら怒られるので

「アンビバレントななんたらかんたらが

シュールな味付けでなんたらかんたらで

とにかく深くて素晴らしい」とか言っておく

「一般国民には

わからんでしょう

この高尚さは」

と言われたら 私は

たやすく憤激する一般国民なので

高いところでいばっているよりは

そばにいる皆と気持ちを通わせたい

だからこれからも

愚かで馬鹿で軽い

詩「みたいもの」を書き続けていきたいと思う

あくまで現代詩の詩人ではないので

何からも自由な

ただの空っぽの人間なので

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一日一詩

先輩詩人が合評会で

「一日一詩を心がけているのです」と

言っていた

絵手紙の

一日一絵がちょっとはやっていた頃

一日一詩も

そうとう気合を入れなければできないだろう

一発入魂の一年一詩ならどうかと言うと

クオリティーの面で尚ハードルが上がってしまう

私も一日一詩を真似してみようか

つまらないフレーズでも

素材ぐらいにはなるだろう

後で生き返るかもしれない

これが今日の一日一詩

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小石

ひとつの小石を投げる

うまくキャッチしてくれればいいが

はじいて落としてしまう者もいる

当たってケガをしてしまう者もいる

受け取ることができても

すぐに捨ててしまう者もいる

大切に取っておいてくれる者もいる

言葉は小石だ

せめて汚れていない石を投げたい

多少ゴツゴツしていようとも

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庭掃除

庭の掃除をしていたら

玄関口にだれか訪問者

蔓をかき分け

枝葉をよけながら

急いで行ってみたならば

若い女性が

占いにご興味はありますか?と

パンフレットを片手に

微笑みながら立っている

全然興味ないです 全然信じていません

と答えても

なおも彼女は食い下がって説明しようとする

と 途中から私の頭の方をチラチラ見始め

では残念ですがと案外あっさりと帰っていく

なにか私の頭に?と思って

鏡を見に行ったら

頭の上にぽってりでかい女郎蜘蛛

セールスをお引き取り願うには

頭の上に不快生物やゲテモノを乗せていくに限る

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虫の音

幾百もの虫の音が

湧き水のように

闇の底を満たしている

植木鉢の下の

穴の中の

草の茂みの中の

地上では

台風の強い風が

木々を根こそぎ揺らし

なにもかもを

吹き倒そうとしているのに

1ミリにも満たない脳は静かだ

ただ生存と生殖のためだけに

そこにある限りの夜を

淡々と鳴きとおす

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予定

カレンダーには

あれやこれやの予定が

ぎっしりと書きこまれている

どうしてこうもやらなくてはならない用事があるのか

カレンダーを真っ白なままにしておきたい

何も用事が無いということは

自分で自由に用事を入れられるということだ

身の回りから

身の遠くまで

すぐさま体を動かして

細やかに気がかりをつぶしていける

また

いなくなった猫を探しにいきたくなった


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九月の体育祭

中学三年生になった息子を見て

当たり前のことだけれど

もう小さな子どもには戻れないのだなと思った

他の子よりもすねが長く

ひょろっとしている

むかで競走は

アンカーで一位だった

百メートル走は三位だった

運動オンチの両親からしてみれば快挙

すごいじゃないか

望みはいつも

低めに設定してきたが

心密かに

望んでもいいだろうか

高すぎず

低すぎず

当たり前の幸せが訪れるようにと

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該当なし

どこで住所氏名を調べてくるのか知らないが

娘が生まれて間もなく

ひな人形のカタログがどっと届いた

息子が生まれて間もなく

五月人形のカタログがどっと届いた

そんな数年が続いたあと 今は

塾や通信教育や家庭教師の猛攻勢

またあと数年したら

成人式の着物の案内も来始めるのだろう

順当にいけば

それらは何の感慨もなく

当たり前に受け取られ

たまに役にたつものあり

大方はさっさと捨て去られる運命にあり

同じ案内書を手にとって

もうこんなものは必要ないのだと

ふうっと重いため息をつく人もあるだろう

人の思いとは関係なしに

時機を見計らって送られてくるパンフレット

カラフルで希望と幸福感いっぱいのパンフレット

役にたつのかたたないのか

少しの間は

とっておいてあげるけれど

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