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1981年9月19日


 夜、部屋の中には陶器の冷たさが充満していた。模様ガラスの向こうに街灯の明かりが濡れたように滲んでいる。目の前に置いた素焼きの大壺の肌は、目の粗いやすりのように、鉛筆の芯を削っていった。壺の内側へと響きをこもらせて、限られた陶彩をのせるために、線はできるだけ素早く簡略でなければならなかった。

 いつでも発想には事欠いていた。他人の仕事を引き写すだけでは、到底鮮やかな発色は望むことはできない。もしその壺そのものが私自身の作品であったなら、すべてを私の力で埋め尽くそうとしただろう。しかし、その仕事には、もうそこまでの純一は求められてはいなかった。

 何度も尋ねられた。そして何度も答えた。作陶は無心になるための手段だった。ただ無心になれさえすればよかった。IQをゼロにして、指先の感覚だけで生きていたかった。穏やかなドラッグに酔いしれるように、私はそれによって分別を逸脱しようとしていた。

 その夜、セントラルパークに集まった群衆は熱狂していた。サイモンは憂鬱な黒い瞳で、ガーファンクルはやわらかな金髪で、懐かしいハーモニーを合わせていた。やらなければならない仕事を脇へどけ、明かりを消した一人の部屋で、私はテレビの画像に見入っていた。最初から最後まで青春を支配したサウンドは、ビートルズではなくサイモンとガ-ファンクルだった。そのことの意味について考えていた。内省と孤独と平和について。

 夢から亡命してきたのは私だった。最高の幻は過去に眠らせておこう。そう自分に無理やりに言い聞かせて。

「預言者の言葉は、地下鉄の壁や安下宿の廊下に書かれている・・・」

 けれどだれもがむしろ明らかな解答には目を背けて、手近な慰めに逃げ込むしかなかったのではなかったか?無心は一瞬で、あとの全ては俗悪なはからいにまみれた手続きに過ぎないことを、すでに悟っていたとしても。

 私は壁に凭れて膝を抱え、画面を見つめながら、冷静な熱狂で心を震わせていた。スーパースターは殺されなくてはならない。暗闇の中で彼らの再びは結び合わないであろう歌声に包まれながら、私はまばたきもせずに、その華々しい終結を祈った。逃げ場もなく照らし出された青春の残像に向かって。

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