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第4詩集 封じ込める(2)


落書き


走って走って 数千の山を越えて

走って走って 怪獣の群れに光線を浴びせ

走って走って 命の水を頭からかぶり

走って走って 崖の縁からダイビング

泳いで泳いで 魔の海のど真ん中

泳いで泳いで 深海の底の宝物をかっさらい

泳いで泳いで 大ダコの頭に印を残し

泳いで泳いで 海の果ての夜明けに突っ込む

飛んで 転げて 潜って 滑る

そんな絵を 君は描いた

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記憶

恐竜のことならお任せあれ

姿形を見ればすぐに分かる

体の大きさ ツノの数

肉食 草食

海のもの 空のもの 地上のもの

マニアックに研究し尽くして

頭の中はそればかり

十階建てのビルの屋上から見下ろしたジャングル

いかような大暴れもお望みのまま

ティラノサウルス トリケラトプス

ディプロドクスにイクチオサウルス

頭突き竜にカモノハシ竜

おかしなやつらだ

生きてる分だけ成長し続ける

謎のように消え去るのは

頭の中でも同じこと

はじまりと終わりは

線で引くことはできない

そのままぼんやりと思い出せなくなって

その後から ふと気づいたように

新しく書き込まれるのは何?

だんだん伸びていく手足

おもちゃ箱も似合わなくなって

本当に欲しいものは何なのか

すぐには答えられなくなってくる

どうやらそれが正しい進化の手順らしいと

知らぬ間に思い込まされて

いつの日か必ず

夥しく降り積もった化石を掘り起こせ

胴震いをして土を振り落し

空いっぱい響き渡る雄叫びをあげ

首をもたげて大きな伸びをする

確かな熱い筋肉の手触りで

ほんのちょっと眠っているだけ

その背中に乗れば

記憶の枠を超えて

一息で飛んでいけるのに

原始霊長類の見た

はじめての夢を覗きに

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笑おうよ


子どもの笑いをとるには

やっぱり

うんちや おしっこや

おちんちんについての話題でしょう

それが一番手っ取り早い

ちょっとぐらい

お下品でもいいじゃないの

子どものうちは

たくさん笑ったほうが

勝ちですから

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入学式

大きすぎるブレザーに呑みこまれ

カポカポした上履きを足先に引っかけ

体育館に張り巡らされた

紅白の垂れ幕を眺めまわし

スチールの椅子をぎしぎしいわせて

首のあたりに巻きつく青い蜘蛛の糸を

引きちぎろうとして もがいている

どうせ言うことはみんな同じ

まずはじめに

「おめでとうございます」

「希望」とか[喜び」とか「やる気」とか

「みんな仲良く」とか[頑張って」とか

昨日慌てて漂白したばかり

まだ言葉の端から薬臭い液が滴っている

椅子にじっと座っていろ

よそ見をするな

無駄口をたたくな

つまりそういうことだ

耳を塞げ

冷たい水槽の底に閉じ込められないように

破れた金網の穴を潜り抜け

追いかけた野菜畑のアゲハチョウ

粉っぽい蜜の匂いをまき散らして

プラチナの菜の花の海に飛び込んでいく

げんこつで地面をたたけば

巨人のように

地殻まで響かせることができるのに

何度も何度も体育館の床に向かってお辞儀をして

あくびをして

はなくそをほじくって

背中をかいて

そのうち おしっこもしたくなって

そうだよ 心だけでも

窓の外の春風にしがみついていけ

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「な」

「な」という字は特別な字だから

他のどんな字よりも

心をこめて

書かなくちゃいけないんだよ

そう言って

鉛筆を握りなおし

不器用に力をこめて

白い紙の上に頭を傾ける

「な」という字は

大好きな

「なかねせんせい」の「な」

大切に 丁寧に

先生がほめてくれるように

ぐねぐねと曲がって

まえのめり

反対の方向を向き

はみだして

今にも空に飛んでいきそう

きっと私も

最初はこんな文字を書いていた

力のこもらない人差し指と親指で

ペンだこもないやわらかな中指で

小さな爪を光らせながら

鉛筆の芯はすり減っていく

教科書が示す分だけ

覚えたいと思う分だけ

命じられあやつられていた文字が

命じあやつる文字になる

「な」と同じ可能性を

すべての文字に探しだせ

その喜ばしい意味と符合

または 遠く応えない虹の記号として

文字の練習は続く

ある夜 誰にも知られずに

ノートに百回も書いて

なおも書き足りず

低く声に出してつぶやく

その文字にこもる痛みを

胸深く知る時がくるまで

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半夏生の光

紫陽花が露を湛える

明けていく朝を

無限の諧調で染め上げるために

くちなしが白をまとう

おびただしい埋葬を

かぐわしい祝祭に変えるために

空を映したフロントガラスに

ゆっくりと淡い海月が這い上がる

梅雨の晴れ間を待ちかねて

どこの物干し竿にも

たくさんの昨日がぶら下がる

すずらんが小さくうつむく

こぼれ続ける記憶を

丸いグラスで受け止めるために

花菖蒲が肩をそびやかす

しおれた傘を

鮮やかな青で塗り直すために

開いたてのひらに

浮かび上がる蜘蛛の巣のあやとり

そこに咲く霧雨のような花々

幾たびも破られて

こまやかな笹の葉がそよぐ

短冊に書かれた送別の作法

かたつむりはさかのぼる

銀色の天の川につながろうとして

ゆらめく今日を抱きとめる力は

一息一息の重なりの中に

曲がり角ごとに溶けた水たまり

虹の油膜を乱しながら

歩き通す半夏生の小道

破られたものは幾たびも繕われて

明日に待ち受ける明日咲く花々

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公園


友だちを作ってあげなくちゃ

そんな名目で

何度も一緒に公園に行って

だれかれなしに話しかけて

意地悪そうな坊主頭にも

愛想笑いを向けて

ブランコを貸してくれないって?

さあさあ もう一度そばに行って

「かして」って言ってごらん

仲間に入れてくれないって?

それじゃあ 何度でも

「あそぼう」って言ってごらん

人間の中でしか生きられない

生きてはいけない

そう思い込まされて

柵の中に追い込まれる

本当は好きじゃなかったよ

きみとおんなじでね

本当は

きみと二人っきりで

誰も知らない原っぱで

きれいな花を探し回っていたかったよ

黙って空をながめていたかったよ

鳥の声を聞いていたかったよ

川の流れをのぞいていたかったよ

風景の中にはじめて人間をみつけて

驚きながら近づいていく

そんな風に

友だちをみつけてあげたかったよ

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てのひらの中に

約束の時間に遅れていくことを覚えた

てのひらの上のたまごの重さ

薄く張り裂けそうな真昼の光

傾いていく球体の回転

お寺の鐘が重そうに揺れはじめる

桜の樹肌にあふれる飴色の蜜

きれいに口元をぬぐう

何にせかされることもなく

流れていく

位置づけされることのない時間

ゆっくりと手を差し入れる

そっと抱き上げるために

分け合った鼓動が

首筋で呼び交わす

白い皮膜の中にうずくまり

教えられた法則からも逃れて

てのひらの中のたまご

あたたかく もろく

何よりも真白く

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子どもの世界

さっきまでご機嫌で笑っていたのが

次の瞬間 大声で泣きわめいている

それが子どもの世界

見てごらん

夕焼けの色に染まった飛行機雲が

少しただれながら

西の方へ広がっていく

気持ちよく泣くことで

子どもは今日のわがままを終わらせる

夕焼けが消えてしまうまでの間

おとなは

絵の具の混ぜ方だけに

思いをめぐらせていればいい

さあ もういいだろう

十分に鮮やかな色は出た

泣いた時と同ように

また突然に弾み出しながら

帰ろう

つむじ風のような

子どもの世界

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武器

武器を持たせてあげたい

フィラメントのような

繊細な心の形をした少女に

海賊のように

宝物を集めたがっている少年に

巨大な熱量を秘めた

最高の武器を

撃鉄を組み立てるために

足の擦り傷から流れ出た血を

雷管を作るために

こらえたまなじりの涙を

銃身を決定するために

怯えた心臓の鼓動を

持て余さない程度に重く

見失わない程度に大きく

くっきりと自らの名を刻んだ武器

弾丸はもう既に熱を帯び

仕留めるべき未来に向かって

鋭く照準されんばかりになっている

シミュレーションせよ

その武器が

海王星の石ころを

撃ちぬくことができるかどうかを

驚きの目を見張り

機能を使い果たせるようになるまで

君たちが

その武器に守られているのを見るまでは

私は役目を終われないのだから

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別々の世界


リュックサックの肩ひもが

小さな肩から

何度も何度も滑り落ちる

腕を突っ張って

ロボットみたいにして

工事中のマンションの向こうに

隠れてしまうまで見送って

さあ 

きみはきみ

わたしはわたしで

別々の方向を向いて

今日を生きる

折り畳みの傘が開かなくたって

おにぎりが転げ落ちたって

足にまめができたって

水筒の水が無くなってしまったって

それはそれで

きみの世界の中で

きみが越えていくべきこと

鍋を焦げつかせていたって

洗濯機がガタガタいってたって

散らばったおもちゃが片付かなくたって

約束の時間が迫っていたって

それはそれで

わたしの世界の中で

わたしが越えていくべきこと

さあ きみは山道をゆっくりと踏みしめ

わたしは階段を駆け上り

別々の方向を向いて

今日を生きる

何かを越えて

きみが帰ってくるまでに

わたしも

何かを生み出せているように

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笑っている

笑っている顔の写真

去年のお遊戯会や

おいも掘りや

遠足の写真は

どれも眉根を寄せ

少し泣きそうな顔に写っているのに

今度の写真は

にっこりと笑っている

やっと笑ってくれた

お友だちの間に埋もれそうになりながらも

シャボン玉がパンとはじけたように笑っている

たったそれだけのことなのに

いつまでもうれしかった

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自然薯のつる


自然薯のつるが

電柱の鋼線に巻き付いている

おとといよりも

昨日よりも

もっと高く

巻き上がっていく

自分になら

いくらでも高く

望むこともできるが

きみたちには

どこまで望んでいいのだろうか

見守っている

ただそれだけでいいのだろうか

無理はするな

そこで休め

そう言いたい言葉と

誰よりも高くのぼっていけ

そう言いたい言葉を

一呼吸遅らせて

羽のように

思いをかけて

遠くから包み込んでいたい

その重さに気づかせることなく

空の方向

自然薯の伸びるに任せて

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数えたりなどしないことだ

印をつけたりしないことだ

いつも笑い声は

灰色のペンキの下に

塗りこめられて

較べたりしないことだ

計ったりしないことだ

銀色の恐竜が叫ぶ

その叫びが聞こえる場所で

悠々と眠る術を学べ

予測しないことだ

準備などしないことだ

速やかに流れ去らせるために

天体はすべて円の軌道を描き

深く横たわる夜を迎える

あなたの言う

有りうべき最高の理想の姿

にこりともせずに

宝石のような毒の結晶を

握りしめるだけの

淋しく見通されてしまった

望ましい未来に

泥はねひとつも許されずに

当てはめないことだ

追い込まないことだ

繭の眠りが覚めた時に

窓を開け放ち

どこへでも飛んでいけるように

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その先は

晴れた日は

晴れた空を移ろう光の加減を

曇りの日は

まだらに浮かぶ灰色の雲の重さを

雨の日は

小さな手のひらに落ちる雨粒の形を

雪の日は

雪の不思議そのものを

はじめから一緒に学んできた

驚きながら

今 きみは

すべての感情を整わせ

揺れやすい天秤の上に

ギザギザのかけらを浮かべている

指さす方向に顔を向けても

視線は別のものを追い

さえずりに耳を傾けても

違う音色を感じている

トンボの複眼の数だけ

見えている風景は膨らみ

蝉の共鳴板の大きさだけ

腹の中に響きをため

てなずけられない鼓動

感情の花束を胸に

今 きみは

風の中に立っている

その先は

もう教えてはあげられない

夕暮れの空を飛ぶにしても

地中深くかき分けていくにしても

海の青に染まるとしても

ぎらつく平原を走るにしても

もう 命じる者は

きみ自身になったのだから

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リレー


遠くからでも

結わえた髪の感じでわかる

黄色のゼッケンを胸に垂らし

バトンが回ってくるのを

不安そうに目で追いかけながら待っている

校庭を取り囲む桜の木は

豊かな緑をまとい

もうすぐ あるかなしかの

小さな実を結ぶだろう

校庭からはじきだされてみて はじめて

かけっこなんて

みんなたいした差はないんだと分かった

誰の背中を見て走ろうとも

きみはきみらしい方法を

選びとっていけばいい

さあ しっかりとバトンを受け取って

走れ

何も考えずに

地球ごとのかたまりが

がっちりと

運動靴を押し返してくれるだろう

いつか

誰にも渡すことのできないバトンを

手に握りしめる日がくる

砂に引かれた白い軌条からはずれて

一人ぼっちのコースを走りはじめる

0.1秒では走り抜けられない夜がくる

その時のために

今を懸命に走れ

周りで声を張り上げている仲間たちを記憶して

学校の匂い

雲のかたち

太陽のまぶしさ

転びそうになりながら

リレーの輪の中を

走れ

きらめく白帆のように

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制止


未知の冒険に誘われていく

どこまでを許せるか

どこまでを信じたらいいのか

胸の奥ではかっている

制止すべきかどうかを

コンクリート塀をよじのぼり

狭苦しい泥道を行き

壊れたお化け屋敷を覗く

膝小僧にアワフキムシの泡をくっつけ

やぶをかき分け・・・

そこまでなら分かっている

心密かに恐れている

安全圏から踏み出して

見知らぬ場所に行ってしまうことを

大きな痛みを抱えやしないかと

制止することで

冒険を諦めてしまうことをも

あいつと付き合うのはやめろと

言いたくて仕方がない

引きずられて行くんじゃないと

ただその行動様式がつかめないというだけで

危険視する

きっぱりと自分の行く道を選べるまで

ふらふらと危うい道を行く

その肩を思わずつかみたくなる

ここにとどめておきたくて

このふところで眠っていてほしくて

ゆりかごの歌を

繰り返し聞かせたあの頃

いつも目の前で笑い 泣いていた姿が

急に見えなくなる

夕暮れの時間も忘れ果てて

森の奥へと突き進もうとする心を

心のままに行かせてあげるには

まだ短い髪が幼すぎて

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笑顔


太陽には たくさん ほくろがある

にきびだって そばかすだってある

でっかい鏡をのぞいては

ちょっとは気にしているけれど

へんなお化粧するよりは

そのまま 素顔で

わっはっはと大笑い

ぎらぎら ざんざん 光っていれば

ほくろや にきびや そばかすなんて

まぶしくってみえないよ

さあ 輝いて

さあ 笑って

とびきりのいい顔は

いつだって

太陽みたいな大きな笑顔

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反抗

何週間も洗っていない上履きのかかとを踏んで

スリッパみたいに

ペタペタ音をさせて階段を下りる

すれ違いざまに

横目で何か言いたげな女教師

言いたかったら言えばいいのさ

「学校の体裁というものがありますからね・・・」

後ろの席で

ノートも取らずに

小説もどきを書きふける

見事なまでに

何の音も耳に入れない芸当を身に着けて

「ここは試験に出るぞ」

たとえ教師が大声で怒鳴っていたとしても

教師の立場 生徒の気持ち

自分本位で身勝手で

底意地が悪くて高慢で

ぐいっとこぶしを突き出して

これ以上は近づけさせない

誰にもこの心臓はつかませない

こちら側の席から

手におえないハリネズミの目つきで

胸ポケットからのぞいた「HOPE」を突き刺している

教科書に載っている偉人の顔に

眼鏡と髭と皺を描き込み

口裂け顔で笑わせる

位置のエネルギーは

無限大にふくらんでいく

生徒として やむを得ず生徒として

大人になる前に

百万冊の教科書に

神の似顔絵を描き続けてやる

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手まり


ランドセルから鈴の音をさせて

土手の上を競争しながら走った

よく吠える野良犬が

いつも待ち構えている草むらの近くで

小石を持てるだけ拾って

一緒に掘った垣根の下に

冬眠しているカエルをみつけた

寄せ合った顔の口もとに赤い大きなおでき

笑いながらも心配気にのぞきこんで

糸を巻いて

ぐるぐる巻きにして

小さな手まりを作って

秘密の壺の中にぽとんと落とす

後になり 先になり

振り返り 並んで歩いた

同じ形をした二つの心

コンパスの針で

地面に深く名前を刻みあったことも 

傷の中ににじんでいた夕焼けの色のことも

子どもじみたシールを何枚も入れ込んで

送りあった手紙のことも

封筒の色や便箋の模様

互いのために選んだすべてのことを

ぐるぐる巻いて

まんまるく巻いて

ほぐせないくらい固く巻いて

秘密の壺の中にぽとんと落とす

そのまま安心して

すっかり忘れてしまってもいいように

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秘密

お説教も心配も届かない所へ

早く行ってしまえ

その涙の見えない所へ

手をもぎ放すのは

きみの方からだ

育てられるためではなく

守られるためでもなく

自ら生きるために生まれた

それぞれに

役目を見い出すために

泣くために

悲しむために

憐れみを受けるために

生まれてきたのではない

自分だけの秘密を作りあげて

誰の立ち入りも許すな

たとえすぐそばに

先々を心配する目があったとしても

許可はとらなくていい

胸に痛みを抱えた時に

帰れる場所だけは

ここに残しておいてあげるから

いつか

笑いながら手を振りあおう

あっさりと背を向け合おう

きみは 

きみだけの秘密を隠しに

小さく息を弾ませながら

深い森に入っていくだろう

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