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第28詩集 猫の箴言集

揺れる

雲は

どこにも追い詰められないで

ただ流れたり消えたりしている

今日 

すべての花びらは風にふるえ

ぴくりとも揺れ動かない枝を持つ木など

ひとつとして無い

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生きる

後ろ足が一本取れたって

平気で生きているバッタ

いざとなったら

尻尾をすっぱり切ってしまうトカゲ

失くしものはいろいろあるが

どれも致命傷ではない

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柿の実

なり続ける柿の実

大きく甘くふくらむといい

落ちてしまう柿の実

笑いながら諦めるといい

いずれはみんな冬の空

春になったら新しく

みんな生まれなおすといい

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言葉

いっぱい言葉を知っていることが

大人の証明だよ

(知らなくてもいい言葉まで覚え込んで)

娘に「氾濫原」の

読みを教える

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時がたてば

死んでしまうといやだから

もう猫は飼わない

そうかもしれないし

そうでないかもしれない

死んでしまう命だと分かっていたから

あんなにもいとおしく抱きしめた

そうかもしれないし

そうでないかもしれない

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森 Ⅰ

ひとりひとりに

心という深い森

暗いも明るいも

花も苔も下草も生き物も

森の心のままに

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森 Ⅱ

人は

森を抜けていく生き物

明るさに向かおうとする生き物

誰も

いつまでもここにはいない

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犬の事件

近所の飼い犬の柴犬の太郎が

なんだか違うと子どもらが言う

ひとまわり小さくなっていると言う

そして勝手に次郎と呼んでいる

太郎なのか次郎なのか

一体何があったのだ

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どこに

のぼりゆく太陽

正中

下りゆく太陽

人は必ず

そのどこかにいる

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凝視

逃げるだけでは

逃げられないものがある

胸の中に

それはある

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守り神

外壁をするすると

さかさまにおりていくヤモリ

落ち葉の吹き溜まった

通気孔の奥へ

神はうかうかと

姿を見せてはいけない

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また今年も

一人きり

池の中の十年目の金魚

あてもなく水草に

卵をつぶつぶと産み付ける

春先のはかない淡雪

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無常

また今年も

また来年もと

思っていたが

ガマ蛙は戻らなかった

金魚は夏を越せなかった

池に水草だけがはびこっていく

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帰り道

月が

暗闇に白く

鎌の刃の形で浮いている

古びた貼り絵のように

剥がれおちそうになりながら

春の日の朝夕

世界の広がりが

優しい球体であることを見失う日

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鬼も見ている

トイレの片隅に

節分のときにまいた豆が一粒

ふやけて割れている

なぜ私はそれを片づけない

三月になっていく

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孝行

何もしてあげられなくても

何もしてくれなくても

とりあえず元気

ただそれを知らせあうだけで

親孝行と子孝行

悲しみを隠すことはあっても

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宿主

猫に狩られ

ついさっき死んだ小鳥の

冷えはじめた体から

逃げていく無数のダニ

この可憐な体のどこに

これほどの寄生があったのか

見捨てた船からの

朗らかな脱出

命の暖かさのある方向に

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春の朧

暗がりで

悪口を言い合っている人たちの

はるか頭上に

今にも振り下ろされそうな

三日月

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生と死の区別

窓際で

枯れてしまったサボテンに

生き返るすべはあるのか

血流は通わなくても

トゲはまだ鋭く尖っている

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八月の猫

私を見かけるたびに

駐車場の車の下から

何度でも

まろび出てくる

なでてやると

おなかの方だけひんやりしている

背中の黒が

すぐに焼けてくる

じゃ また

夕方にまた会おう

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盆過ぎの猫

廊下大きい空き箱と

一回り小さい空き箱を

並べておいたら

小さい箱の方に入った

みっしりと

頬肉がはみ出ている

腹肉もたるんでいる

両手両足を突っ張って

居心地の良い

丁度良い狭さ

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寝姿

猫が

寝ている

人間だったら

死んでいるのかと

思わせる場所で 姿で

詳細が無事送信されました!

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