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1,太極拳を始めたきっかけ

 太極拳教室に通い始めたのは、30代の後半ぐらい。その頃NHK のテレビでやっていた太極拳や気功の番組を見て、「やってみたい、できそう」と思ったのがきっかけです。 

 誰かと組まないとできない球技のようなスポーツと違って、自宅で一人でいつでも気ままにできる、ということが魅力でした。そういう意味で、私は若い頃ヨガの教室にも通っていたことがあります。ヨガと太極拳、一人で自分を高めていくという点でどこか似通ったところもあるのではないかと思います。    

​ ちょうど多摩市民館に教室の募集ポスターが貼ってあり、会場も近かったのですぐに教室に行ってみました。先生はとてもお若いほっそりした女性の方で、扱う内容は何種類もの気功法、24式太極拳、42式太極拳、32式太極剣、56式陳式太極拳、その他に、推手(2人で行う組手のようなもの)など盛りだくさんのメニューでした。健康を目指すゆるい太極拳というよりは、もう少しハードな感じで、参加している会員さんも40代~50代の方が多かったように思います。 

 教室が終わったら、必ずその日のうちに覚えている限りの動きをなんとなく復習し、ノートに大体の手足の動きを描きました。24式太極拳は教本も買いました。 

 当時はパソコンなどもなく動画を見て学ぶということができなかったので、分からない所は次の教室まで分からないままになってしまいます。陳式だけはどうしても動きがつかめず、1度だけ先生に許可をとって後ろからビデオ撮影させていただいたこともありました。

 

 

2,公園でのひとり練習

  ちゃんとできたらかっこいいだろうなあという緩い気持ちで始めた太極拳。週1回の教室での練習の他にも、子どもの幼稚園バスを待つ時間や、子どもを公園で遊ばせている時間など、外でもこまめに練習をしていました。へたなので小さい動きで目立たないようにしながら。

 「公園で人に見られながら太極拳をするのはちょっとはずかしいです」と、当時の先生に言ってみたことがあります。

 先生は「恥ずかしいなんておかしいですね。公園でもどこでもどんどん練習してください。私も人がいっぱいいる公園で太極拳していますよ」とおっしゃいました。

「そうかあ」と、少し勇気をもらいましたが、やはり一緒にやってくれるお仲間でもいないと、公園での練習は気が引けるものです。

3,教室の成り立ち

 ​ この教室は1983年(昭和58年)に多摩市民館成人学校の一環として開講されたもので、たぶん数ヶ月か1年かのコースだったようです。当時を知っていらっしゃる方によると、普通の24式、48式太極拳などの他に88式太極拳までもやっていたそうです。

  そのコースが終了したあと、もっと太極拳を続けたいという方たちが先生を新たにお呼びして、生徒が運営する形での自主教室を立ちあげました。会計や日程調整など生徒たちで役割分担しながら、現在まで38年もの間、教室を維持し続けてきました。

  長年の間には会の財政に困難が生じ、先生を安定してお呼びできなくなる状況も発生しました。先生がお出でになれないときは生徒たちで教え合って乗り切ってきました。

  この教室は先生一人に依存するものではなく、生徒全員で作り上げてきたものだと言えます。

  ちなみに私は1994年ぐらいからの参加です。年数ばかり無駄に長くたってしまいましたが、歳をとっても飽きずに続けられるのが太極拳のよさです。

  

​4,先生になりました

  コロナ感染症が蔓延した昨年より、今まで来てくれていた先生が東京にお住まいということもあって、教室にお出で頂くことができなくなりました。先生からのやむにやまれぬお願いで、私がそのあとを継ぐことになりました。

  今まで先生と私とで交互に月2回ずつ受け持って教えていましたが、私はボランティア先生の位置づけ。先生と半分半分の責任で、いえ、なんなら先生が7、私は3ぐらいの軽い気持ちでやっていたので、この状況に慣れるまでに少し時間がかかりました。今も実はドキドキです。

  人間として成長するいい機会なのだと自分に言い聞かせながら、皆さんの前に立っているのです。

 ★ブログでもう少しくわしく→太極拳講師になった

​5,教室の休止

  去年の10月から順調に開けていた教室でしたが、高齢な方も多いので大事をとってまた一時休止にしました。ブランクができてしまうと動きを忘れていってしまったりもしますが、声でのリードに従って、またすぐに「なんとなくついてこれる」状態になれると思いますので心配せずに教室再開をお待ちください。覚えている気功法を部分的にでもやってみるといいですよ。

  一人で家にいるとストレスもたまりがちです。そんなときは、深い呼吸をして、体をゆったりと緩めましょう。身体の痛みをはじめ、不調や不具合は誰でも持っていると考えて、今日できる最善を尽くして心静かに1日1日を過ごしていけたらいいですね。

 ​ いつも中心軸を意識して、前かがみにならぬよう。 

                                      2022年2月5日

 

​6,教えるということ

  教えるとはどういうことなのかをしばしば考えます。自分のやり方でやるしかないのですが、それにしても他の先生のやり方も見ておいた方がいいのではないかと思い、このところいくつかの教室に生徒として参加しています。六十歳を過ぎると地域で無料講座をおこなっている施設もいくつかあって、お試しで気軽に参加できるのです。

 楊名時太極拳、簡化24式太極拳、ヨガ、ピラティス、自彊術など身体を動かす講座に参加して思ったことは、講師がしゃべりすぎて生徒が聞き役になっている時間が多いと微妙にフラストレーションが生じる、ということです。講師が教えようと必死になればなるほど、流れが止まり、生徒の動きも止まってしまうのです。

 また、生徒の受けを狙おうとして終始無駄口をたたき、ノンストップで喋り続けの講師もいましたが、一体何を習っているのか全く不得要領のまま一時間が過ぎてしまいました。

  その点、まだ年若い女性インストラクターのヨガ講座はとても気持ちよく参加できました。流れるようにいくつものポーズを提示してくれた後、適度に休憩のポーズも入れてくれて緩急の扱いが見事。無駄な説明もないので落ち着いて深い呼吸を保ちながら十分に体を動かすことができました。

  必要な指導以外は、くどくど説明しすぎないこと。深い呼吸を保ち、中心軸を意識して、無駄な力を削ぎ落しながら動き続けるということ。私が今目指すべき指導目標はそこかなと思います。

 

 ​7,楊名時太極拳

 ​ 簡化24式太極拳と楊名時24式太極拳は似て非なるものです。

  どのように違うのかを学ぶため、近くの高齢者福祉施設で行われている教室にもう一年通っています。

  楊名時は、全体の流れは簡化24式と同じですが、動作の手数がいくつか多く、重心の移動も違っていたりします。

  簡化に慣れている身からすると、どうして楊名時氏は簡化24式を改変しようとしたのか理解に苦しむところですが、ほぼマスターした今では、楊名時24式もふわっとしていてなかなかいいじゃないかと思います。やさしい感じがします。

  今後うちの教室に楊名時を学んだ方がいらっしゃったとしても、どこがどう違うのかを教えてあげられそうです。

 

 

8,太極拳を覚えるということ

  一時的かもしれませんが、今、当会の会員さんは結構増えて15名います。これは私にとってはなかなかの大人数だし、新人さんやある程度できる方もいらっしゃる中、どの層に向けて何をどう説明したらいいのか、大変に迷う状況です。

  そもそも太極拳ができるようになるとは、どのようなことなのでしょう。一通り誰の動きも見ずにできるようになれば、一応「できる」と言ってもいいかもしれません。細かいところは間違っていても、気持ちよく全体を通せることが肝心です。完璧じゃなくてもいい、やっていて心地いい、それが大事です。

  自分一人でもできる動きを少しずつ増やしていければ、それが心地よさに繋がっていきます。自分の手の動きに集中して動けるようになれば、ますます雑念が消えて没我感に浸れるようになります。

  もし自分一人でも出来るようになりたいのであれば、やはり、週1回の教室だけでは無理があります。一人で思い返して一人で動いてみたり、ネットで動画などを見て分からないところを一つずつ学ぶ、などの個人学習が必要です。

  ゼロから学ぶということは大変な努力を伴いますが、一つずつ進めばいいのであるなら、そうは負担は無いはずです。私も最近「益気功」を福祉施設の教室で学び、簡単そうだから覚えたいと思い、動画を見るなどして覚えました。

  実は「益気功」は、何年も前に覚えようとしたのに断念していました。簡単だからこそあなどって一気に覚えようとしてしまい、一つ一つの動きはともかく、順番を覚えるには至らなかったのです。今回1週間に3つずつ覚えていき、やっと順番も覚えることができました。 

  太極拳を覚えるのも一緒です。一つか二つの動作を、丹念に自分で思い返して、または動画の補助を受けて、まずはそれだけを覚えていけばいいのです。確実に一つずつ一つずつです。

  けれど、教室に来る目的は必ずしも太極拳をマスターする、ということだけではなくてもいいのです。体を動かして少し汗をかいて、ちょっとは筋肉に刺激を入れて、健康のためになった、と思えればいいのです。

  教室では細かい指導は控えて、とにかく体を動かしてもらうことを目指しています。説明ばかり聞かされてずうっと棒立ちになっている時間が多いと、けっこうフラストレーションになってしまうことは、私自身の生徒体験からも分かっています。言葉での説明は案外頭を素通りしていってしまうものです。自分の間違いに気付くのは、ずっと後、何かのきっかけではっと気づくことが多く、その場で注意されても、すぐにちゃんと正されることは少ないのです。時間がたってしまうと、また自己流に戻ってしまっていたり。

  とにかく、よく分からなくても動きましょう。覚えたいという気持ちが出て来たら、太極拳の心地よさが身についてきた証拠です。 

                                      2023年7月18日

 

9,私の太極拳の取り組み

  姑の自宅介護を5年近くやっていました。ほとんど寝たきりだったので、生活の介助、身体の介助など私が一人でやっていました。頻繁に介護スタッフ(看護師、訪問医、言語療法士、リハビリ士、訪問入浴、福祉用品支給関係の人、ケアマネなど)が来るので、その時間は家にいなくてはなりません。

  それに姑は手術入院後、まったく自分からしゃべろうとしなくなったので、何か用事があった時のために枕元にブザーを置いてあげたのですが、なぜか20分おきに用も無いのに鳴らし続けるのです。それに対応するのにもかなり疲弊していました。

  太極拳教室で週一回3~4時間家を空けなくてはならないときは、家に帰るまで姑は無事だろうかといつもドキドキしていました。

  そういうわけで家からなかなか離れられなかったストレスフルな時間を私はひたすら太極拳を覚えることに費やしたのです。10分、20分の時間があれば外に出て、一つでも動作を覚えようとしていました。

 

  覚えたのは、24式、48式の太極拳の他に、42式、32式、40式、8式、16式、88式の太極拳。入門太極拳、初級太極拳。13式太極拳。

  剣は、32式太極剣の他に、16式剣、42式剣、武当太極剣49式、13式太極刀。

  扇は、56式功夫扇、18式扇。

  気功法は、教室でやっている八方向の気功法、舒心平血功、益気養肺功、和胃健脾功、導引保健功の他に、練功18法前段、八段錦、益気功を覚えました。練功18法後段もやっていたのですが、しばらくやめていたら流れを忘れてしまいました。

  という訳で、今は練功18法後段をちゃんと思い出そうとしながら復習しているところです。

  それから去年から楊名時太極拳24式、楊名時八段錦にも取り組んでいます。普通の24式や普通の八段錦と微妙に違うので、少々混乱するところもありますが、慣れればしっかり区別しながら行うことができます。

 

  介護というストレスフルな時間を生き延びるために、私には自宅の庭で一人でもできる太極拳が必要だったのです。

  今は、一度覚えた套路を忘れてしまってはもったいないので、毎日復習する日々です。覚えたものを維持するのも大変です。

  でもまだまだ覚えたいことは沢山あるのです。八法五歩、馬堆導引術(一度別の教室で学びかけて途中で終わってしまった)、等々。「欧州少林寺」のサイトでみつけた「易筋経」がかっこよかったので一生懸命覚えたのに忘れてしまったので、それも覚え直したいし。扇だってネットで見るといろいろあるようです。自分をどこまで広げられるか、これからも自分を試す日々は続きます。

  でも、あの究極につらかった介護の日々に行った太極拳ほどには、鬼の形相ではやらないでしょう。少しずつ楽しみながら、気紛れに、休み休み、完璧を目指さず割と適当に。それが太極拳を長く続けるコツです。

10、太極拳ブログ

  太極拳はネットの動画を見るだけでなく、個人のブログを読むのも面白かったりします。

 私は「随筆★太極拳」「らくらく太極拳」などのHPを時々のぞきます。太極拳について、健康のことについてとても勉強になることが書かれています。お二方とも太極拳指導者なので、やや専門的なことにも触れています。

 その他にも、太極拳を学ぶ生徒として率直な気持ちや感想をブログに挙げている方たちもいます。最近「若葉マークの楽しむ太極拳」というブログをみつけました。手探りながらもわくわくしながら太極拳を学ぼうとしている姿勢に好感が持てます。ゆっくりな更新のようなので、止まらないことを願いながら時々のぞいてみようと思います。

11、それぞれの健康法

 人の健康法をとやかく言う筋合いはありませんが、気になる人たちはいます。

 八十歳を過ぎていても毎日一万歩を歩くことを自慢にしている女性の方がいました。若い頃からスポーツジムにも通ってこられたとおっしゃっていたので、体もしっかりとしている方でした。

 最近その方が転んで足を骨折してしまったと聞きました。毎日一万歩をノルマにしていたので、夕方万歩計が8000歩ぐらいだと夜でも少し散歩に出てしまうとおっしゃっていました。活動量が多いとそれに伴ってリスクも高まります。その方は、少し歩き過ぎだったかもしれません。

 それでも筋力はしっかりしていたせいか、寝たきりにはならず、しばらくしてまた少しずつ足をかばいながらゆっくりウォークングを始めたそうです。骨折したのは大変だったでしょうが、早めに回復できそうでそれは良かったと思います。今後、無理なウォーキングは控えつつ健康を維持してほしいと思います。

 もう一人は、私の通うスポーツジムに新しく入られた若い女性です。その方は、ものすごくやせているのです。女性らしいふっくらさがなくて、本当に折れそうなほどガリガリなのです。しかし私がジムに行くと(週3回ぐらい)、その人はずうっとウォーキングマシンで歩いているのです。見ていて、それ以上やせてどうするのかな、と思ってしまいます。何か健康上の理由があって歩いているのかもしれませんが、それにしてもあまりにスタスタ早歩ばかりしているので、どうしても気になってしまいます。

 私も姑の介護が終わって解放されて、思う存分外に出られるようになった時に、ずうっと外を歩いていた時がありました。毎日一万歩以上歩いていました。しかも夜は、動画を見ながらダンスエクササイズを1時間ばかりやっていました。体重が落ちてしまっていましたがそれを不健康なものだとはちっとも考えず、これだけ運動したのだから筋肉も一杯ついているぞという気になってしまっていました。太極拳だってずっとやっている自負もありました。

 しかし蓋を開けてみたら、筋肉量も骨量も全然自慢できるようなものではありませんでした。ウォーキングや有酸素運動だけではだめなのです。太極拳もゆっくりとした動きで下半身の筋力を使いますが、筋肉量を増幅させる運動ではありません。

 日常に筋トレを取り入れて行く必要があります。体を傷めない程度に負荷を与えていく。むむむ、と力を込めて維持する。少しでも筋肉を減らさないように、少しでも増えていくように、ちょっとは自分の筋肉を意識して動く。スクワットなどの運動をする。それと同時に筋肉の元となるタンパク質をきちんと摂取することも大事です。

 筋肉があまりないことを自覚している私は、これからも少しずつ努力を続けないといけないと思っています。

★ブログでもう少しくわしく→「骨とトレーニング

12、カンフー映画

 カンフー映画が好きです。ブルース・リーやジャッキー・チェンの映画はたいがい見ていて、その他にドニー・イェンのファンでもあります。ドニー・イェン主演の映画ではブルース・リーの師匠のイップ・マンについて描かれた「イップ・マン」シリーズがおすすめです。ドニー・イェンの超絶カンフーアクションはあまりに華麗すぎて一瞬も目が離せません。「イップ・マン」では、中国を侵略しようとしている日本兵が非常に極悪に描かれていて、この映画で中国の人の日本人観を知ることもできます。

 女性だったらチャン・ツイーが可愛らしい顔立ちとしなやかな体の動きで流麗なカンフー技を見せてくれます。映画のメイキング映像を見たことがあるのですが、撮影前に悲鳴をあげるほど過酷なトレーニングをやっていました。やっぱり足を高く蹴り上げるなどの動きには相当股関節を柔軟にしておかなければいけないのだろうと思いました。

 キアヌ・リーブスの「マトリックス」もある意味カンフー映画だと思います。最後の方、キアヌが「救世主」として覚醒した時、襲いかかって来るエージェント・スミスたちに棒立ちのままほとんど眠ったように静かなたたずまいで、最小限の手の動きだけで攻撃をかわしていくところが痺れます。

 コメディーでは「少林サッカー」が面白いです。カンフーの才能がありながら市井に埋もれていた人たちを発掘して、悪徳チームとのサッカーの試合で勝利していくお話です。自分に自信のない女性が実は相当の太極拳の使い手で、ゴールキーパーとして太極拳の魅力を披露してくれるところも見せ場の一つです。

 思うに太極拳そのものを扱った映画はそうは無いようです。やはり少し静かすぎて、映画には向かないのでしょう。

13、挑戦するということ

 代々木の体育館で行われた太極拳の競技大会を見に行ったことがあります。普通のゆったりした太極拳の審査の他に、槍や棍の競技もありました。これがもう本当にアクロバティックな動きで、見ていて息もつかせません。超絶すごい技を次々とスピーディーに繰り出し、くるくる回るわ飛ぶは捻るわ走るわで本当に全身をくまなく使ったオリンピック競技並みの全身運動です。

 演舞しているのはほとんど十代か二十代ぐらいの体が柔軟な若い人たち。うわー、こんなすごいのを教えてくれる教室(または部活とか?)ってあるんだと思いました。私が若かったなら、そしてそんな教室が身近にあったなら絶対覗きに行っていたと思います。でも入会したかどうか。こんなすご技をマスターするなんて私なんかじゃ無理だと思って二の足を踏んでいたかもしれません。武術の動きのセンスが無いと絶対ついていけそうになくて。

 大学でも、静かな広場の片隅で白の胴着と黒の袴姿の青年たちが棒術の型を練習しているのを、いいなあ、やりたいなあと思いながら少し離れたところから眺めていたことがあります。小雨降る中、棒をカツン、カツンと打ち鳴らしながらゆっくりと組み合っている姿。そこには日常とはかけ離れた静謐な時間が流れていました。

 私のような素人の、しかも女子がいきなり教えてくださいって言っても、きっと、自分たちの練習が減ってしまう、素人に一から教えるなんて面倒、とか思われて断られてしまうだろうなあと思い、声をかけられませんでした。

 でも人は、何かをやりたいと思ったら、そしてやれる条件が整ったら、ダメもとで挑戦していったほうが良いのだと思います。その機を逃したら、二度と出会えないということもあります。別のことに忙殺されて興味を失ってしまうこともあります。太極拳の教室に来てくれている皆さんは、機を逃さずちゃんと挑戦することができた方々なのだと思います。

 たとえば武当剣49式の動画を見てみてください。なにがなにやら分からぬほどにくるくると舞い踊り、相当の範囲を駆け巡っています。一目見ただけでこれを真似するのは無理だと思ってしまいます。でも私は毎日武当剣49式を練習してみます。動画を見ては、右に捻ってる? 上から?下から? 向きは?、やっぱりあちこち違うとがっかりしながら。これが私の今の挑戦なのです。

14、練習をする場所

 気功法は畳一畳あれば練習できますが、太極拳や太極剣はそうはいきません。右に左に3~5メートルぐらい移動しなくてはならないので、よほど広い部屋が無いと十分にのびのびと練習できません。パソコンで動画を見ても、ずっと見ながら通して動くことができないということも太極拳の練習での悩ましい部分です。

 私は家の北側に車6台分ぐらいの広さの駐車場があるので、早朝などそこで練習をさせてもらっています。今のところ2台しか車が停まっておらず空きスペースは十分にあるので。ただコンクリートで固められておらず砂利を敷き詰めただけなので足場がごろごろして少しやりにくいです。草もぼうぼうです。

 麻生スポーツセンターの第2武道室も本来なら柔道とか合気道などで使う畳の部屋なので、足場がふわふわして片足立ちになる時にバランスがとりにくいということもあるでしょう。できれば板の間の第一武道室を取りたいのですが抽選の競争率が高いので、つい取りやすい畳の部屋になってしまいます。

 バランスが取りにくくて苦労するということは、それだけ足の筋肉を使っているということです。何でもすいすいできてしまうことよりも、自分のできないこと、やりにくいことを体で感じていくことは重要なことだと思います。

 本当の武術的な戦いだったら、足元がどうであろうと、たとえばぐちゃぐちゃの泥田であっても、切り立った岩場であっても揺るぎない姿勢を取って立向かわなくてはなりません。

 どんな足場であっても、中心軸を正しく真っ直ぐに。私はそんな気持ちで砂利でゴロゴロした駐車場で練習しています。たまに草むしりも交えながら。

15、動き続けるということ

​ 太極拳は音楽の演奏に似ています。起勢の声がかかったら、最後まで止まらずに進んでいかなくてはなりません。教室の練習では説明などが入るのでやむを得ず動作がブツぎりになったりもしますが、本当に「通す」となると流れるように動き続け、一瞬でも止まってはいけません。「気」が途切れてしまうからです。

 無の心で連綿と動き続ける。それが太極拳の肝です。ひとりでも自由に太極拳を通せるようになったら、きっと「気持ちがいい」という心境に至れると思います。その感覚をつかむまで、ぜひ皆さんにも頑張ってほしいと思います。

16、太極拳と心の安定

 介護をやりはじめた最初の頃、心の安定を欠いていた時がありました。介護のベッドに近づくと足が震え、鳥肌がたつような感じに襲われ、なんとも気持ちが悪くなるのです。元気な時の姑はとてもいい人で、嫁姑のトラブルなど全然無かったから、介護もちゃんとしてあげられるだろうと高をくくっていたのに、蓋を開けてみたらこの体たらく。とんでもないことでした。

 太極拳教室を終えるといつもとてもお腹がすいて、さあ、何を食べようかと買い物をしていても楽しかったのが、全然食欲がなくなり、夜も足がブルブルムズムズしている感覚が抜けず眠れなくなりました。ふだん、どうでもいいじゃん主義で割とちゃらんぽらんだった私が、介護では相当参ってしまっていました。

 それでも毎日の朝の太極拳トレーニングは欠かしませんでした。時間をみつけて散歩もどんどんしました。しかしどんなに体を疲れさせても、心の疲れがとれないうちは食欲も出ないし眠れないのです。

 太極拳が心の安定に効果があることは疑うべくもないことですが、それでも体調が戻るまで数ヶ月かかりました。太極拳をやっている数分だけは何も考えるまい。動きに集中しよう。別の新しい太極拳を覚えてみよう。そんなことで気を紛らわしているうちに、足のむずむずや鳥肌も少しずつ減っていきました。

 心の安定を図るため、人はいろいろな趣味や楽しみを持っていると思いますが、私に太極拳があったことは一つの救いになりました。

 父や母が亡くなって帰省した次の朝も、実家の近くの公園で太極拳を通していました。私が太極拳をやっている姿をとうとう見せてあげることができなかったなと思いながら。

17、意識を変えてみる

 太極拳はあくまでも自分のため、自分の健康のために行うものですが、時には意識を変えてみるといいと思います。

 たとえばもし誰かに(友人、パートナー、近所の人、子ども、孫などに)、「太極拳を教えて」と言われた場合、果たして何をどう教えたらいいのか考えてみるのです。それまで漫然と、できなくてもまあそれなりに動けていればいいやと思っていたのが、もっと一つ一つ丁寧に正確に覚えなくては人に伝えられないと思うかもしれません。

 まだまだ学びはじめの初心者で全然できないと感じている人でも、太極拳の知識ゼロベースの人からすれば、太極拳について何かを知っている人であり、何かを教えてあげられる人なのです。

 どう教わろうかから、どう教えようかに意識が変わった時、太極拳の覚え方、学び方にも新しい展開が訪れるでしょう。私自身の体験をも踏まえて、そんな風にも思います。

18、人前に立つということ

 人前に立つという立場になって、最も気をつけていることは自分の体調です。コロナがはやってからはちょっとした喉の痛みでさえ警戒しなくてならなくなりました。いつも万全な体調でいようと心掛けてはいますが、今年はコロナにもかかり2回ほど教室をお休みしてしまいました。

 誰でもどんなに気を付けていても感染症にかかることもあるでしょうし、どこか傷める時もあるでしょう。家族の病気や介護などで生活が変わりストレスを抱えることもあるでしょう。

 教える立場の私は、喉痛も熱もせきも無く、体の痛みもなく皆さんの前にちゃんと立てていたなら、その日の教室は80パーセントは成功、というような気持ちでいるのです。教室に赴ける元気があるということは、とりあえず幸せなことです。

 生徒さんも気負わず気軽に、教室に来ただけでミッションはかなり成功というような気持ちで会場に来ていただけたらと思います。身なりを整えたり、出かける準備をしたり、教室で親しい人と会っておしゃべりをしたりすることも太極拳教室に関わる楽しみの一部です。それは生活の張りにつながるものです。

 そしてもし体調が悪くなったり怪我をしてしまったとしても焦らずゆっくり休んで、また教室に元気に顔を出してくれたらと思います。

 私が皆さんの前に立てていたら、とりあえず今日の教室は80パーセントは成功と思ってください。たとえいくつか間違えることもあっても。そしてあとの20パーセントは‥‥もちろん精一杯頑張らせていただきますので、皆さんも各々できる範囲内で頑張ってついてきてください。

19、太極拳の発表会

 私が生徒として習っている楊名時太極拳のクラスが、発表会イベントに参加しました。地域のサークルが20組ぐらい集まって合唱や踊り、フォークダンス、若い人の一輪車、太鼓などを披露する毎年恒例の地元イベントです。数年間コロナで中止になっていましたが、太極拳の先生が今年はぜひ出場しましょうと強く主張されたので有志10名ぐらいで参加することになりました。

 私が主として携わってきたのは簡化24式太極拳なので、楊名時太極拳はまだちょっと気を抜くと間違えそうになってしまうところがあります。他の方々もまだばっちりとできるとまではいっていない方が多く、なんとなくそれとなく動けるといった程度なので、皆自信なさげでした。それでも間違えても気にしない気にしないと言い合って気軽に参加しました。 

 土曜日に近くの小学校の体育館を借りて行われました。事前に空き教室でリハーサルなどを行ってまあ大丈夫そうな感触を得ていましたが、いざ演壇にあがるとやはり練習の時には分からなかった不具合が発生しました。

 まずテンポです。先生が最初、「礼、開歩、十字手、起勢」と号令をかけ、その声に合わせて始まるのですが、声が全然聞こえず最初から動きが合わなくなりました。

 楊名時でかける音楽は自由に選定してよく、動作名の号令が入っているわけでもないので、その後も皆の動きがバラバラで不安定な状態が続いてしまいました。私もお隣の人や全体をそれとなく見回して合わせるようにしていましたが、果たして合わせられていたかどうか疑問です。しかも皆、普段から発表会を意識して練習してきたわけでもないので、もともと手や足の動きなどあまり合っているとは言えませんでした。

 私たちはテレビなどで若者たちが一糸乱れずに美しく踊っているダンスパフォーマンスを当たり前のように見ていますが、ぴっちり全員が同じ動きをするためにはどんなに過酷なトレーニングが必要か、裏では相当厳しい練習の日々があったであろうことに今更ながら気づかされされました。

 周りの人に、またはセンターの人に合わせればいいやという考えは通用しません。一人一人が音楽を把握し、自分の動くテンポを理解し、個人個人が誰の真似でもない自分の動きをしていて、しかもそれが全員きっちり合っている。そこに至って初めて人を魅了するパフォーマンスになるのです。

 普段の太極拳の教室では発表会への出場は目的にしていないので、個人個人自分の動きで楽しめていればいいと思います。けれど周りに合わせてきょろきょろしている状態から脱却して、自分らしい動きに集中しているなかで更に周りと合っている状態が作り出せたなら、きっといつもより一段上の新しい空間が現れるのかもしれません。

 今回の発表会の出場で、団体競技としての太極拳の難しさを改めて感じました。うまくできないからと発表会の出場を辞退する会員さんも多かったのですが、挑んでみればいろいろな気づきがあります。思い返せばあれこれ小さな失敗はありましたが、それもいい経験だったと思えた一日でした。

20、重い

​​ 少し重い剣を自宅練習用に買ってみました。いつもの剣が200グラム程度であるのに比べて400グラム近くあるので重さは2倍です。

 重い剣だとどう違うかというと、まず素早く剣を振るえなくなります。切り上げたり振り下ろしたり、水平に止める動作などで、いちいち腕に負荷がかかっていることが感じられるので、動作がゆっくりになります。

 本物の剣の重さに近いらしいのですが、実戦では結構な腕力が無いと切り続けられないかもしれません。「るろうに剣心」の映画では佐藤健くんがひゅんひゅん刀を振るってスピーディーに敵を倒していきますが、実際にはあんなに素早くは振れないのではないかと思います。

​ 日本の剣道と同じように、太極剣も自らを傷つけないようにして振らないといけません。

真剣だった場合を常に想定して動きます。不用意に剣を振るうと自分の足を切り付けてしまいかねません。剣道ではそうならないために、振り下ろした竹刀をきちっと止める練習をするのだと聞いたことがあります。

 重い剣だとちゃかちゃか振れないので、じっくりと剣を動かしていけます。そういう点で、たまに重い剣を使ってみるのもいいかもしれないと思っています。

21、私の太極拳の覚え方

​ 楊式36式太極扇を動画を見ながら独習しています。2~3日から1週間かけて一つの動作を身につけていくようにしています。できるところまでを毎日2,3回通します。先を急がずにあくまでもできるところまでを繰り返します。多少細かいところが間違っていても、動きが止まらずにできていたならまあまあできていると判断して、少しずつ進みます。やっと半分ぐらいのところまでこぎつけました。

 いつもやっている太極拳ではあまりに慣れ過ぎてしまって、ぼーっとしてやっているといつのまにか最後までたどりついてしまっていることがあるのです。意識が飛んでしまっているというか。それはそれで頭が無になっていることなのだからいいのですが、やはりくっきりとした意識を持って取り組みたい。そういう意味でも、時々新しいものに挑みます。

 

​ 太極拳の教室では、それぞれの方の進度や目指すところも違いますし、一応套路の全体をお見せしたいので最初から最後まで一気に通していますが、本当に覚えたいと思ったなら、自分一人でできるところまでを何度も繰り返すのが良いと思います。

 それには教室に頼るのではなく動画なども参考にして「一人でどこまでできるのか」を見極めることが必要です。

 1日に1回、できるところまで動いてみる。分からなくなったところで、その1つだけ、手足の動き1つだけを動画で確認して、まずそれだけを動いてみる。そうすることで進んでいけると思います。

 必ずしも完全に正確でなくてもいいのです、なんとなくでも一人で動けるようになると、かなりうれしいものです。しばらくは間違ったままいい気になって通してみて、その動きにも慣れた頃に気が向いたらまた動画を見直して一つ一つ修正していけばいいのです。

​ 億劫でも毎日ほんのちょっと​ずつ、とどまらずに。それが進歩に繋がります。

22、体育がきら

 私は子どもの頃から運動は大の苦手でした。どちらかというとずっと文系で、部活も運動系に入ったことはありません。その割に上背はあるので、バスケットとかバレーボールとかやってた?とかよく聞かれていました。チームでやるボール競技など、体育で強制的にやらされる以外にはやったことはありません。勝ち負けがある競技は自分のせいでチームが負けたらと思うと怖くて参加できませんでした。

 太極拳の教室に来てくれている会員さんたちのなかには、若い頃球技が大得意だったという方もたくさんいらっしゃるのだろうと思います。反射神経がよかったり、筋力がしっかりしていたり。運動すること自体大好きだったり。私も子育てに余裕が出来た頃には、エアロビクスなどの教室に行っていたこともありました。しかしどうも活発な動きは私には無理があるような気がしていました。その頃出会ったのが太極拳の教室です。

 太極拳なら、生まれつきの運動能力など関係なしに、だれでもそこそこ習熟していけます。それこそ高齢になっても続けていけます。私が体育ダメダメな子だったとしても、全く何の影響もなく楽しめるのです。

 ゆっくりと、できる範囲で自分の能力に従って動く太極拳。それは青少年の体の育成にはそぐわないかもしれないですが、年をとっても続けることができるかなり有効な運動なのです。それに太極拳の種類の中には、超絶スゴ技を連発するような武術に特化した分野あります。それこそ若いうちから取り組める環境があったなら、私がやってみたかったことでした。

 蛇足ですが、近隣の中学の1年生の体育の選択授業では、柔道かダンスか選ばなくてはならないそうです。私が中学生だったら、どっちも嫌だなと思っていたでしょう。ヨガとか太極拳とか、個人で運動能力をのばしていけるような科目が選択候補にあったなら、体育の時間が好きになっていたかもしれません。

23、太極拳参考動画について

 いろいろな太極拳の動画がyou tubeに挙がっていますが、私のお気に入りは「中村げんこう」さんの「太極拳中村げんこう」動画です。声も音楽も聞きやすくて心地よい感じがします。説明も丁寧です。一番参考にしています。

その他にも、

・大畑裕史さんの「大畑カンフー・太極拳チャンネル」(短い動画がたくさん)

・劉一丁さんの「太極拳&健美Tube」(美しくてかっこいいです)

・村上僚さんの「武術太極拳チャンネル」(説明はないけれど流れる動きがきれい)

・竹内健二さんの「竹内太極拳」(音声が少しざらついているのが残念)

・Sally TaiChi 太極拳・体操「細かすぎるコツとポイント」(動作一つずつに細かい説明)

・イナミ先生のもふもふ太極拳(とても若い美人さんがかっこよく動いてくれるので、学ぶと言うよりみとれます)

・大御所の「李徳芳」さんの動画もはずせません。

・「ムー先生と一緒に」シリーズも、動画の種類が多くて見ていて学びきれない感に打たれます。

 他にもたくさん魅力的な太極拳動画があります。探してみてお気に入りがみつかったら繰り返し眺めることで、勉強にもつながっていくと思います。

24、太極拳ウェア

 去年、楊名時太極拳の教室で発表会があったとき、皆でユニフォームを揃えようという事になり黒い太極拳ウェアを1着買いました。先生からお預かりしたウェアのカタログをながめているうちに、個人的にも何着か買い求めたくなりました。

 太極拳ウェアは実にカラフル。派手な色遣いの服も多いのですが、まあ普段着としても着れそうなTシャツもあります。今まで気恥ずかしくて教室でも太極拳ウェアを着たことはなかったのですが、もうそろそろ着てみようかなと思い始めました。そういえば私が知っている太極拳の先生方は皆さん素敵なウェアをお召しになっています。

 価格は、1着2千円台から4千円台のものが多いようです。ネットで無料カタログを手に入れることもできます。

 もちろんいつもの練習なら、動きやすい服装であればどんな服装でもOKです。表演会に出るわけでもないので、衣装を整える必要もありません。太極拳ウェアはあくまでも太極拳の気分を上げるための装いです。会員のみなさんももし着てみたいと思ったなら、派手かなとか気にせず、好きな服を好きなだけ遠慮なく着てください。

 私ももっと自由になっていきたいと思っています。

25、気が散る

 太極拳は、どこで流れを止められても、またそこから始められてこそプロだと思っています。だからたまに気が散って、今どこまでやったっけ? そもそも今何をやってたっけなどと動きが止まってしまうと、溜め息と共に自分の未熟さを思い知らされ、まだまだ全然駄目だなと思います。

 たとえば外で太極拳をやっていて、視界の隅に通行人が入ったりすると、ふっと意識が飛ぶことがあります。またはいつもと違う向きでやっていて、ふと方向を失念することがあります。いかに目に映る関係ない映像に意識が乱されているかということです。

 それを防ぐには、いつも目の前にある自分の手の動きに意識を集中するといいのでしょう。

 それは分かってはいますが、鳥が鳴けば鳥のいる方向に目をやるし、雲が美しければ雲を見上げ、人が通ればつい目をやってしまう。そんな雑念だらけの太極拳、止まってしまってはやり直す緩い太極拳も、日々の軽い練習であるなら許されるのかもしれません。

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