レンガ磨き
7月いっぱい梅雨だった
庭一面に敷いた吸水レンガが
常時湿っているので
コケやアオコがどんどんついてしまう
涼しい梅雨のうちに
大バケツにたまった雨水で
暇さえあればレンガを磨く
ホームセンターで買ってきた金属のブラシで
無心にシャカシャカ磨きまくる
黒ずんだレンガの庭が
きれいな淡いオレンジ色に変わっていく
3分の2ほど磨いたところで
梅雨が明けてしまう
太陽がビリビリ照り付けてきて
日向にずっといられないので
レンガ磨きは一旦休止だ
次にブラシを持つのは
ゲリラ豪雨の土砂降りの日
カッパを着て
激しい雨の中に屈みこんで
磨き残しのレンガを磨く
まだ夏の部類のぬるい雨だから
濡れても全然寒くない
汚れもすぐに流れていくし
傍から見たらかなり変な人
秋までに全部磨き切れるか切れないか
それが毎年の
梅雨時から晩夏にかけての
私の恒例行事
仕事のような趣味のような
(2020年 8月5日)
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時間の使い方
ここで一旦整理しよう
1週間の介護関係者の私の外出のスケジュールはこうだ
月曜日:訪問看護師(30分)・訪問言語聴覚士(40分)
火曜日:往診医(月2回火曜か金曜、時間指定2時間のうち約30分)
訪問入浴(約45分)
水曜日:訪問リハビリ士(1時間)
木曜日:太極拳教室(1時間半 現在コロナで休止中)
金曜日:往診医(月2回火曜か金曜、時間指定2時間のうち約30分)
訪問入浴(約45分)
土曜日:なし
日曜日:自彊術教室(1時間 現在コロナで時間短縮 初伝はいただいた)
その他に1ヶ月に1度
ケアマネージャーが様子を見に来る(15分)
おむつ等5000円分を500円で支給してくれる業者が来る(5分)
1日の私の姑関係のスケジュールはこうだ
姑のおむつ替え(6~8回、それぞれ3分~15分 処理の内容による)
朝昼晩の食事づくりと寝る前のおにぎりや牛乳の準備
パジャマの着替え(1日おき)
手洗いしなくては落ちない汚れの洗濯(ほぼ毎日)
ベッドメーキング・シーツの取り換え(毎日 便で汚れていたらその都度)
枕もとのお茶の補給(3回)
その合間合間に
姑のおむつやお尻ふきの大量買い出し
姑が食べられそうな食材お惣菜の買い出し
自分のための1日の時間使いはこうだ
太極拳や気功法を庭で1時間半練習
草むしりや枝剪定などの庭仕事
食材や日用品の買い出しと調理、片付け
掃除は最小限に
夜はYou Tubeを見ながらの有酸素運動1時間半
その合間合間に
録画してある映画やドラマをTVで見て
ミステリー小説を読む
自分のHPの更新をして
詩になりそうなことはないか考える
1年に2~3ケ月ぐらいNPO関係の校正の仕事
その他にご飯をたべなくちゃいけないし
お風呂に入らなくちゃいけないし
さて このほかに何ができるか
取り組み途中のものもいろいろあるが
そうそう 49式武当太極剣の習得には
ここ3ヶ月ばかりてこずっている
こうしていろいろ活動しようとはしているが
何か焦っているような感もなくはない
同世代の人で介護などしていない人は
外食に旅行にと毎日を楽しんでいるのだろう
それを思うと何かもやもやする
私の人生が介護で食いつぶされているような気がする
今はただ時間に縛られない生活がしたい
気が向いた時に
夜昼かまわず出かけたい
今一番欲しいのは
ただ純粋に自分のことだけで1日を過ごせる
「自由」なのだ
(2020年8月8日)
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お盆だけれど
向え盆だが
実家へは帰れない
私だけではなく
大勢が帰れない
夏祭りも盆踊りも
打ち上げ花火も立ち消えになり
公園にやぐらを組む大勢の人出もなく
太鼓や笛の音もなく蝉の声ばかり
盆休みどころか
そもそも夏休みすら
あるのか
ないのか
今年の子どもたちには
ただ暑いだけのお盆
しかも暑すぎて
玄関のドアを開けた瞬間に
うわっなんだこれは体温より明らかに高い
と感じる暑さ
試しに理科の実験器具の100度計で
日なたを計ったら42度はあった
ニュースで36度37度と言っているのは詐欺だ
それは風通しのいい日陰にある百葉箱の中の気温
人は外を出歩く時
風通しのいい日陰にある百葉箱になんか入っていないのに
そういえば
PCR検査の感染者数の数値だって
かなり詐欺でしょうね
このままなんとなく
送り盆になり秋になり
ご先祖さまたちは
なんだかいつもと待遇が違うと思いながら
お墓周りや仏壇周りに立ち尽くす
あなたたちはこの得体の知れない疫病や
命に関わる尋常ではない暑さに
遭遇しなかっただけ
ちょっとは幸せだったのかもしれないですよ
見えない何かが絶えずそばで
うごめいている
真夏にマスク
誰の顔にも色とりどりのマスク
こんなに暑いのにマスク
意味があってもなくても
みんなしているからマスク
次に来る大移動のイベントは
年末年始
あと4ヶ月ちょっと
今よりなんとかなっているのか
いないのか
帰省できるのかできないのか
占い師も預言者も口を閉ざし
医療従事者もちゃんとしたことが言えない今
外界のことはひとまずさておき
私は毎日毎度 次から次へと
姑の介護のあれこれに
縛られているしかないのである
(2020年8月13日)
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巨大グモ現る
夜11時ごろ冷蔵庫の上の方の壁に
巨大グモがはりついているのを突如発見した
体は2センチぐらいだが
足がものすごく長い
各足が10センチぐらい
全体でこどもの掌ぐらいの大きさだったろうか
まさか毒グモじゃないでしょうね
こんなに大きな蜘蛛を初めてみたので
しばし対応に困って動けずにいた
一体どこから入った
夜遅くだったので騒がずになんとかしようと思い
結局プラスチックケースにうまいこと閉じ込めて
近所の梨畑に放してきた
深夜 その蜘蛛の入ったケースを持って
茂みの緑を探してしばし歩いたのだが
12時近いというのに
玄関口でホースの水で何かを洗っている男の人がいる
なぜにこんな時間に?
昔に比べて街灯が各段に明るくなった
にしても何だか不穏
玄関で水を使う男
巨大蜘蛛を持って歩く女
くっきりとした影を曳いて
ひと時あやしくすれ違う晩夏の深夜
あとでネットで調べてみたら
アシダカグモというやつで
ゴキブリとかを食べてくれる益虫だったらしい
どうりで今年はゴキブリを見なかった
そのまま部屋で飼うという選択も有りだったのかもしれないが
うちには猫がいるので
みつかって殺されてしまうより
外に放してあげてよかったのだろう
我が人生初めてみた巨大グモ
もし益虫だということを前もって知っていたとして
そのまま放置できたか
ゴキブリを食べてくれるなら歓迎したいところだが
やはり夜に近接で遭遇したら
うわわわっと叫んで固まってしまうだろうな
結構わちゃわちゃわちゃと
スピーディーに動くやつだった
(2020年8月26日)
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サイクリングロードを行く
カレンダーに
赤く丸をつけられることもなく
不測の花火は
いつか どこかの夜に
打ちあがる
筋雲の向こうに広がる
大きな川の流れ
ポケットの中の
小さなメモ帳には
氾濫の跡 流木のしがらみ
とだけ書かれている
ただ今年の秋の為だけに
生まれ出でて
鳴いている川辺の虫たち
もうじき
溢れ来る濁流に
身を守る知恵もなく 彼らは
(2020年9月12日)
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白い箱
もともと小さな白い箱の中で
小さく生活していたのだが
2月3月あたり
その箱の外側に
もう1つ黒い箱をかぶせた
なんとなく薄暗くなったが
別に平気だった
5月6月には
箱の内側に断熱材を施し
二重箱のぐるりを
防風林で囲った
空気の流れがとまり
耳の奥が静まり返ったが
別に平気だった
8月9月になったら
外側の箱のあちこちが
うすくひび割れて
しょぼしょぼ雨漏りがし始めた
ああ もうこれは限界
かぶせていた邪魔物を
全部取り払って
またもとの
白い小さなひとつ箱
明るいのだけれど
どこか曇っている
作り上げた気持ちの檻は
思いのほか破れにくい
吐いた息を開放する裂け目は
さあ どこだったろうか
(2020年9月28日)
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愛じゃない?
介護の愚痴や文句も
ぶーぶー垂れる
とはいえ
割と親身に
ほとんど寝たきりの姑を
自宅介護している
これって
かなりすごい夫への愛じゃない?
笑顔振りまく若い頃の愛とは
全然違うけれど
姑の日々の健康を
きっちり請け負い
下の世話も厭わない
それって
まわりまわって
夫への結構ディープな愛じゃない?
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黒いプードルくん
早朝の散歩で会う
黒いプードルくんに
なぜかとてもなつかれている
遠くから私をロックオンすると
飼い主さんを引きずるようにして
猛ダッシュして走ってくる
飼い主さんは
足の少し悪い初老の男性
お互い へへっ、とか
あらあら、とか
苦笑いしながらおじぎをして
しばし黒いプードルくんの
なすがままにしている
私の足にむしゃぶりつく
その異様なはしゃぎぶりに
幾分困惑も感じている
黒いプードルくんは
私に顔をくるくるなでられたあと
飼い主さんに引きずられながら
振り返り振り返り
名残惜しげに帰っていく
かわいいからいいけど
犬だからいいけど
人間の男だったら
あれはやだなと思いながら
私はまた
朝の散歩を続けるのである
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リハビリはいつまで
姑は知らないだろうが
シルバーカーを使っても歩けなくなった時が
訪問リハビリの止め時だと
ケアマネさんと私とで話している
10年近く慣れ親しんできた
もの静かな男性リハビリ士さん
たぶん姑のお気に入りの人
やさしく触れてくれる1時間
姑にとって大切で特別な時間のはずだ
この頃姑は
促されても歩くのを渋るようになってきた
ほんの短い廊下を1往復がやっとだ
少し前まではなんとか2往復はしていた
がんばらないと
リハビリ士さんと会えなくなっちゃうよ
姑が
リハビリをやめてももういいやとか
思っていたならそれでいいが
そうではないなら このままだと
あと少しで ケアマネさんに
もう意味ないからやめましょうと宣告されて
その時点で
リハビリ士さんとは
永久にさよならだよ
(2020年10月4日)
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水溜まり
映画を字幕で見ていたら
「trick」が「めくらまし」と訳されていた
ああ これは秀逸
どこからこんな言葉を引っ張り出せたのだろう
最近 私の頭の中には
言葉の候補の在庫が
だいぶ少なくなってきてしまった
一見 小さな水溜まりのように見えて
足を突っ込んだら
果てしなく底のない暗黒の沼
そんな言葉だまりを
隠し持っていたかったのだが
「tricky」だったら「きわどい」とする
地下茎を張り巡らせた
深い言葉のぬかるみに
もう一度 足を取られてみたい
「trouble」だったら「いざこざ」
または「警察沙汰」か「刃傷沙汰」か「色恋沙汰」か
優れた翻訳のセンスは
詩の言葉選びに通じる
そうそう飛躍ができなくて
じたばたしながら悔しがるばかりだ
(2020年10月14日)
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シャボン玉
ベッドに横たわったままの姑のお尻を
紙おむつを下に敷いて
ボディソープで洗っていると
かなりの確率で
おならをかましてくる
すると おしりで
シャボン玉がふくらむ
おやおや
おならが入った大きなシャボン玉ですなあ
はじけるとにおいますなあ
それは
介護における
ひとつの笑いどころではある
(2020年10月24日)
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海に還る
昨日をしるす疲れもなく
昨日を思う記憶もない
あなたは
生まれたての赤ん坊のように
今朝 またひとりで
目覚める
汚れのない手
やわらかな足裏
積み重ねた力は
もうどこにもみつからない
摂理の海は
明日もあさっても
あなたを
まっさらな赤ん坊に戻す
獲得してきた言葉を
すべて失うまでの
うしろ向きの旅
はじめて立った日の喜びを
天に返すまでの
ゆっくりとした落下
うすく閉じかかった目は
いつも
眠りの淵に落ちたがっている
おぼろげな推移
明日もあさっても
(2020年11月1日)
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姑語録
「ぱぁぁ~ ぷぷ ば~ ぱっぷっ はぅ~ あああ~ ぷっぷっ ぱぷ~ はぁぁ~ はむぅ~ ちぇし~ ぽむ ししぇ~ はぅぁ~ ぷっぺっ ちむ~」
おむつを替えている間じゅう姑はこんな声を発している
天井の方を向いて 真顔で
姑は7年前認知症の診断を受けた後
(私は今でも薬害での譫妄だったと思っているのだが)
半年近く椅子に座ることができず
立ったまま廊下や居間で
延々と同じ言葉をつぶやき続けていたことがあった
すなわち
「まま まま まま まま まま まま まま まま まま まま まま まま まま まま まま
まま まま まま まま まま まま まま まま・・・・・・・・・・・・・・・」
または
「おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん おねえちゃん・・・・・・」
または
「いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい いたい・・・・・・」
私や娘を呼んでいるのか、どこか痛いのかと思って
どうしましたかと声をかけても
呼んでないよと 言ってないよと 呆けたような表情で答えてくる
これが1日中半年ぐらい続いて
ずいぶん辟易したことがあった
脳神経外科のお医者さんに相談しても
認知症の薬を増やされただけだし
医者ってなんでもかんでも薬出せばいいと思ってるのな 本当にしょうもない
そもそもこんな変な症状、薬の副作用じゃないの?
と思いながら姑の不穏な異変を耐える日々だった
それに比べれば
今の「ぱっぽっ ぱぷぅ~ ぷっぷっ」は大変可愛らしい
あの時と同じように自分の意思ではなく
無意識に声が出てしまっているのだろうか
いつもいつもおむつを替えながら
姑の「ぷっぷっぺっぺっ」がはじまると
私も「うぷぷっ」と笑いそうになっているのである
(2020年11月16日)
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ミステリー
今年のお正月には
クロフツの「樽」を読んでいた
樽はいくつあって
どの樽が誰によってどう運ばれ
どこにたどりついたか
樽の中身は死体か石膏彫塑か
2つだか3つだかある樽は
入れ変えられすり替えられ
もうどれがどれやら
「樽」を読み終わった後から
実社会で途轍もないことが起きはじめた
もう世界中がミステリー
ウイルスはどこで発生し
どこを通って
どこにたどりついたか
誰に死は訪れたか
犯人も探偵も一向に姿を現さず
終着点がどこにもないところが
実にじわじわとくる
(2020年10月21日)
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いつも通り
夕方になると数字を確認する
その数字が
もはや絶望的なものなのか
想定内のものなのか
私にはわからない
どうやらだめそうだ
ということは感じているが
だからといって
流れを一気に変える黒魔術や錬金術を
使えるわけでもないので
私はいつも通りに過ごすしかない
いつも通り
冬空は青く明るくさっぱりと乾いている
マスク それも
姑の介護が始まったときから
外出する際には念のためつけていたから
これもいつも通り
今年は皆がうかうかそわそわと過ごしている間に
武当太極剣49式を覚えた
くるくると小走りに舞っていると
少し目が回って気持ちがいい
来年は何を覚えようか
これまでにいくつも覚えすぎて
復習するのに
かなり時間がかかってしまうのだけれど
何もなくて過ぎてしまったような1年
それを残念に思ったりなどしない
大きく笑えることもなかったが
大きく泣くこともなかった
何もないということが
実は一番幸せ 明日も明後日もいつも通りであることを
静かに願うばかりだ
(2020年11月23日)
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富岳に求める
自分も人も
「白」であることを
疑ってみもしなかったし
そもそも白黒なんて考えたこともなかったのに
今や自分も人も
隠れた「黒」かもしれないと
疑わなくてはいけない日々だ
使用したマスクにウィルスなんて
実はついていないだろうよ
と思いながらも
万が一もしかしてを疑い
速やかに処理をしなくてはいけない
(もったいないというのが本音)
今までだって「真っ白」だったことなどないのに
くっきりした「黒」が出現したばかりに
今まで許容していた「薄汚れた白」も駆逐される
勝ったり負けたり
たぶん負けたり負けたりを繰り返し
碁盤の目の上の陣地とり
パッと見
白と黒 どちらが多い?
数字ではなくて
見た目の敗北感 または惨敗感を
切実に感じなくては
えげつなく青い飛沫を
盛んに計算していた「富岳」だったけれど
今度は世界の行く末の白黒を
冷ややかな目で
ちゃちゃっと計算してはくれないか
(2020年12月21日)
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今年のまとめ
年明け早々
姑の大腸カメラ検査
その直後
姑の肺炎での入院(コロナではない)
夥しいミツバチの襲来(分蜂のための一休み)
アシダカグモが部屋の中に出現
毎日の介護と自己鍛錬
校正の仕事を少し
そんなもので
終わっていく今年
2020年という妙な年
11月に知人が二人亡くなった
来た順にお線香を三々五々あげるだけの
簡略なお別れ会
人は皆小声になる
疎遠になる
孤独に強くなる必要がある
今から1年後の年末には
何か決着がついているのか
姑は生き延びているのか
4年間寝付いて少しずつ衰えながらも
来年はもう90歳だからな
傍観者として乱暴な私見を言わせてもらえば
オリンピックはやめた方がいいと思う
K氏とM子様はもうさっさと結婚しちゃえばいいと思う
飲食業と旅行業は一旦全面休止して
医療に全集中すればいいと思う
だけど簡単には
そうもいかねえんだろうよなあ と
ちょっと相田みつおの口調で
(2020年12月24日)
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言い方のクセ
若い往診医が
姑の体重増加を
「むくみじゃなくて
太ったということにしましょうか
うん 太ったということにしましょう」
と言った
私は「そうですね」と笑いながら
心の中で
「医者として
その言い方のクセは
よくありませんぜ」
と思った
このところ
足の指が1本だけかゆい
これはしもやけか水虫か
しもやけだと思いたい
しもやけということにしようか
うん しもやけということにしよう
と思っている私と同じレベルに
なってしまいますよ?
(2020年12月25日)
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うんうん
姑は常にラジオのイヤホンを
耳に入れてラジオを聞いている
だからいくら言葉をかけても
イヤホンを耳に入れている限り
私が何を言っているのかちゃんと聞こえていない
何か声をかけて
姑がうんうんとうなずいたとしても
理解してうんうんうなずいているわけではない
暑いですね寒いですね今日は看護師さん来ますよに
適当にうんうんしているのはまあいい
本当に尋ねたいことがあって
ちゃんと返答が欲しいのに
まるで聞き取ろうとせずに
適当にうんうんして済まそうとしている態度を見ると
なんなんだよと少し腹が立つ
何度もしつこいぐらいに大声で聞き返す
するとやっと耳からイヤホンをはずし
うん? と聞いてくる
やっとかよ、と思う
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ただひとり闇の中を飛ぶ
半影月食が起こると聞いたあの日
窓の内側から東の方の月を見た
地球の影が
ちょっとだけ月の半身を暗くするという
モノクロの模様がついた月の左上が
そういえばいくらか暗かったような
あれから中国の探査機が
月の土壌のサンプルを2㎏も採取してきたり
はやぶさ2が帰ってきてまた急いで戻っていったり
はるか未来に地球に衝突するかもしれないという
微小惑星「1998 KY26」
リュウグウから持ち帰った小さな砂粒から
起死回生のヒントが少しでも得られるのかどうか
国際宇宙ステーションから見た地球は
どこか悲劇的な顔をしているだろうか
JAXAの「はやぶさ2プロジェクト」のHPを見ると
(現在2020年12月23日の午前10時頃なのだが)
from earth 6,735,645km
Asteroid Explorer "Hayabusa2"
とあって刻々と数字は動き
1秒に5㎞ずつはやぶさ2は遠ざかっている
がんばれ はやぶさ と思ったあの1号機
2号機もびゅうびゅう懸命に飛んでいる
地球から月を見る 星を見る
宇宙暦の中のただの一瞬を生きるだけの自分だが
単なる暦では測れない
Cosmosを抱く自分がそこにはいるのだ
(2020年12月23日)
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