1、揺れる(雲は どこにも追い詰められないで
2、生きる(後ろ足が一本取れたって
3、柿の実(なり続ける柿の実
4、言葉(いっぱい言葉を知っていることが
5、時がたてば(死んでしまうといやだから
6、森Ⅰ(ひとりひとりに
7、森Ⅱ(人は 森を抜けていく生き物
8、犬の事件(近所の飼い犬の柴犬の太郎が
9、どこに(のぼりゆく太陽
10、凝視(逃げるだけでは
11、守り神(外壁をするすると
12、また今年も(一人きり 池の中の十年目の金魚
13、無常(また今年も
14、帰り道(月が 暗闇に白く
15、鬼も見ている(トイレの片隅に
16、孝行(何もしてあげられなくても
17、宿主(猫に狩られ
18、春の朧(暗がりで 悪口を言い合っている人たちの
19、生と死の区別(窓際で 枯れてしまったサボテンに
20、八月の猫(私を見かけるたびに
21、盆過ぎの猫(廊下に大きい空き箱と
22、寝姿(猫が 寝ている
揺れる
雲は
どこにも追い詰められないで
ただ流れたり消えたりしている
今日
すべての花びらは風にふるえ
ぴくりとも揺れ動かない枝を持つ木など
ひとつとして無い
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生きる
後ろ足が一本取れたって
平気で生きているバッタ
いざとなったら
尻尾をすっぱり切ってしまうトカゲ
失くしものはいろいろあるが
どれも致命傷ではない
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柿の実
なり続ける柿の実
大きく甘くふくらむといい
落ちてしまう柿の実
笑いながら諦めるといい
いずれはみんな冬の空
春になったら新しく
みんな生まれなおすといい
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言葉
いっぱい言葉を知っていることが
大人の証明だよ
(知らなくてもいい言葉まで覚え込んで)
娘に「氾濫原」の
読みを教える
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時がたてば
死んでしまうといやだから
もう猫は飼わない
そうかもしれないし
そうでないかもしれない
死んでしまう命だと分かっていたから
あんなにもいとおしく抱きしめた
そうかもしれないし
そうでないかもしれない
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森 Ⅰ
ひとりひとりに
心という深い森
暗いも明るいも
花も苔も下草も生き物も
森の心のままに
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森 Ⅱ
人は
森を抜けていく生き物
明るさに向かおうとする生き物
誰も
いつまでもここにはいない
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犬の事件
近所の飼い犬の柴犬の太郎が
なんだか違うと子どもらが言う
ひとまわり小さくなっていると言う
そして勝手に次郎と呼んでいる
太郎なのか次郎なのか
一体何があったのだ
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どこに
のぼりゆく太陽
正中
下りゆく太陽
人は必ず
そのどこかにいる
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凝視
逃げるだけでは
逃げられないものがある
胸の中に
それはある
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守り神
外壁をするすると
さかさまにおりていくヤモリ
落ち葉の吹き溜まった
通気孔の奥へ
神はうかうかと
姿を見せてはいけない
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また今年も
一人きり
池の中の十年目の金魚
あてもなく水草に
卵をつぶつぶと産み付ける
春先のはかない淡雪
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無常
また今年も
また来年もと
思っていたが
ガマ蛙は戻らなかった
金魚は夏を越せなかった
池に水草だけがはびこっていく
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帰り道
月が
暗闇に白く
鎌の刃の形で浮いている
古びた貼り絵のように
剥がれおちそうになりながら
春の日の朝夕
世界の広がりが
優しい球体であることを見失う日
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鬼も見ている
トイレの片隅に
節分のときにまいた豆が一粒
ふやけて割れている
なぜ私はそれを片づけない
三月になっていく
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孝行
何もしてあげられなくても
何もしてくれなくても
とりあえず元気
ただそれを知らせあうだけで
親孝行と子孝行
悲しみを隠すことはあっても
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宿主
猫に狩られ
ついさっき死んだ小鳥の
冷えはじめた体から
逃げていく無数のダニ
この可憐な体のどこに
これほどの寄生があったのか
見捨てた船からの
朗らかな脱出
命の暖かさのある方向に
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春の朧
暗がりで
悪口を言い合っている人たちの
はるか頭上に
今にも振り下ろされそうな
三日月
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生と死の区別
窓際で
枯れてしまったサボテンに
生き返るすべはあるのか
血流は通わなくても
トゲはまだ鋭く尖っている
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八月の猫
私を見かけるたびに
駐車場の車の下から
何度でも
まろび出てくる
なでてやると
おなかの方だけひんやりしている
背中の黒が
すぐに焼けてくる
じゃ また
夕方にまた会おう
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盆過ぎの猫
廊下大きい空き箱と
一回り小さい空き箱を
並べておいたら
小さい箱の方に入った
みっしりと
頬肉がはみ出ている
腹肉もたるんでいる
両手両足を突っ張って
居心地の良い
丁度良い狭さ
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寝姿
猫が
寝ている
人間だったら
死んでいるのかと
思わせる場所で 姿で
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