top of page

娘のような

息子のような

若い話題に

鏡で微笑む

美容室の午後

年をとってからの

生きざまは

「さて あれかし」か

「こは いかに」か

心せよ 私

 

 

 

 

球を構成する色が

回転しながら

あふれだす

消え去る手前

散華するシャボン玉

 

 

 

 

好きな色鉛筆を

使いたいがための

一枚の絵手紙

すすきにじゃれつく

猫について

 

 

 

 

煮るほどに

みぞれ雪のように

沈んでいく

ごった煮の冬野菜

大鍋のぐつぐつの中

 

 

 

 

義父が亡くなった年齢に

夫が近づいていく

まずはその年齢を

​忘れたかのように

越していってほしい

 

 

 

 

校舎の北に

消えない白

踏まれ踏まれて

影の形のままの

大きな冬の四角形

 

 

 

 

虫眼鏡の上から

笑い顔が

のぞいていた

光を集めた

夏がはじまる

 

 

 

死に向かう者と

生にとどまる者が

一瞬交差する

ふたつのてのひら

お別れの間際に

 

向いのアパートで

なんで? なんで?と

泣き騒ぐ若妻

ご近所みんなが

興味と好奇心の耳

 

今日の斎場には

だれの名前も

掲げられていなくて

午後の陽射しが

奥の方まで射している

 

 

小さなゲーム画面を

覗き込む

後ろ姿の少年二人

肩を寄せた

恋人たちのよう

 

ねこヒゲの

コレクション

白ヒゲは

しらがと似ていて

これはどっち?

 

水筒から

氷の音をさせながら

少年は

夏の部活に向かって

駆け上っていく

 

背の高い女子同士

ついお互いを振り返る

損もあれば

得もあるよね

胸を張っていこう

夏の日焼けを

両腕に残したまま

真っ白な長袖に

つつまれていく中学生

いつ秋色になる

 

落ち葉踏む細道

かたわらの林の奥から

蝉の声ひとつ

もうだれも呼びかけに

応えない

 

中学生たちに

くさいくさいと

言われつつ

神社脇の銀杏並木

ぼとぼとと実をこぼす

 

もくもく毛虫が

大急ぎで

幹線道路を渡っていく

あと少しあと少し

逃げ切るまでを見届ける

 

 

立ち止まった

シュナウザーの

後ろ足が

ふるふるしている

うんちかな老いかな
 

 

炎天の縁で

前足を突っ張った

野良猫が

傾きながら

道路をみている

水やりしたがる

心をいさめる

適度な乾き

適度な追い込み

​そして芽吹きを待つ

霜氷が光る葉裏に

さかさまにすがる

白い蝶

さかさまのまま

凍りつくか

一人でも行く

大人になってからの

おまつりは

昔買えなかった

りんご飴やあんず飴

足先だけ鈍く動く

落ち蝉に

蟻が群がる

まだ魂は

そこにあるのに

 

 

二度

脱皮したらしい

蜘蛛の巣の網に

十六本の

半透明な足が開く

枝を取り合って

羽ばたき合う

初夏の雀たち

待ちわびる柿の実は

まだ青い

夜中にどこかで

高らかな

鳥の声が響きわたり

こんな夜中に

なにを告げたい

これは

舞鶴草でしょうか

葉蘭かもしれませんね

ご近所の人と

とりあえずの世間話

外に出るなと

天が言う

降り続く豪雨

露地のトマトが

実割れしていく

誰に触られても

ぴくりとも反応せず

ひらべったく

伸びている

​夏の老猫

現身はとうに消え

強風に耐え

大雨にうたれて

冬までもそこにいる

​蝉のぬけがら

灼けつく日向よりも

しっとりとした日陰へ

意識よみがえり

少し鳴いて

じたばたする落ち蝉

柿の木の下

陽の光で回転する

レコードのきらめき

小蜘蛛がひとしきり

音楽を奏でてきた

居酒屋が消え

雑貨屋が移転し

投げ売り野菜だけが

元気に売れていく

朝の無人販売

自分ちで

食べきれない分を

売りに出していたはずが

食べるものさえ

売ってしまう無人販売

理科の授業

太陽を取り囲む

灼熱のガスの層

真っ白な円環の名が

意味を変えて今は

もう十年

片付けられない

ご近所の犬小屋

いつもそこにいた

吠えない柴犬

九月の長雨

神社の切り株に

きのこが生える

まつり提灯も

どこかで湿気る

お地蔵さまも

ペコちゃんも

サトちゃんも

カーネルじいさんも

​マスクをしている

大きなできごとが

終わり

胸もとに

猫を撫でる手の

​しずかさ

介護4年の成果

おむつ替えも

陰部洗浄も

はい できますと

手を上げられる

姑の介護で

なけなしの優しさを

使い果たしてしまうので

​やむなく夫には

そっけなくなる

準備した

夏の喪服を

引っ込める

​医師の見立て違いを

責めはしない

城址に向うくらやみ坂

姑の施設に

絵葉書を届けに行く

甲冑の武士が

伝令するがごとく

定期の訪問者もなく

静まり返る玄関

姑の踏み台は

引き続き

老猫が使っている

閉館となった大型施設

重機で削られ

いくつもの洞穴が

剥き出しになる

記憶が縦割りになっていく

足裏のタコだかイボだかが

市販の薬で

ポロリと取れた

半年痛かったのが

三日で治った

黒服ロン毛茶髪の若者が

番屋でナシを買っていく

袋をふりふり

細身が妙に寒い

土曜日の昼下がり


うっかり
走り出たカナヘビが
腹を焼かれて
大慌ての足さばきで
草むらに飛んで帰る

脱皮に失敗したセミが

飛びたいのに

どうにも羽ばたけず

地面の上を​ずっと

くるくる回っている

 

Get in Touch

123-456-7890 

bottom of page