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五行歌・坪庭のつわぶき
鏑木恵子
丸い焦げ跡を
地面に残した
年越しの焚火
甘酒の温かさで
一年を開く
一月の軒先に
忘れ去られた
吊鐘ひとつ
はらわれゆく煩悩
風の中にいくつ
輝き立つ
寒晒しの霜柱
粛々と
儀式のような朝
光が整う
初咲きの
香りにひかれて
角を曲がれば
海という展開
水仙の花咲く
二階の窓から
投げ撒く豆は
何を追いやる
有象無象に
春のつぶて
笹原の斜面を
風がやわらかく
立ちのぼっていく
猫をなでる
てのひらの記憶
私だけが
称えられてあるような
川べりの風の中
桜吹雪
一身に浴びて
緋鯉は
緋鯉だと思いもせず
ただ一点の赤
上からのぞかれて
小川に遊ぶ
精霊馬の
行先を照らすのは
もう
私の明かりではない
稲妻が光る
耐えに耐え
嵐の中を
生き延びて
蚊は何度でも
刺しに来る
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