1、流れる(揺れている振り子の落ち着き
2、ケン玉の情熱(咲きかけた木蓮の花 白い花
3、居眠り(通りすがりの家の垣根からはみ出ている
4、シクラメン(JAの駐車場いっぱいに
5、散歩する足音(ハンバーガー店で少女は
6、花(どの花が咲き
7、戦う意思(裏道にとめられた自転車のかごの中で
8、バーチャルリアリティー(ON 生の脳味噌を電脳へと切り替える
9、黒い軍艦(やがて黒い軍艦の上から
10、古いアドレス帳(友人たちの住所を
11、美しいものを見た(一羽の鳩を見た
12、名前(命じられる
13、生身の言葉(脳味噌から出っ張ったねじを締めていく
14、澄む(上澄みだけを
15、朝の領域(ああ・・・と思うような
16、ねこのおしり(ねこのおしり
17、ねこの肉球(かたいような
18、布団を干す(ぽかぽかの日向で
19、冬至(今日は冬至
20、夢中(いつからだろう
21、想像力(そのマンションの下には
22、風の力(傘を振り回して
流れる
揺れている振り子の落ち着き
すべりゆく星の熱情
まわりまわる水流の悲しみ
砕け散った宝石の晴れやかさ
私はそのすべてであり
一部分であり
届こうとする力の矢印に従って
瞬間ごとに表情を変え
絶えず流れていくものである
--------------------------------------
ケン玉の情熱
咲きかけた木蓮の花 白い花
昨日 鳥が蕾をついばんでいたが
晴れた日には咲くことができそうだ
透けていきそうな白い花 木蓮の花
ケン玉がうまくなりたかった時と
同じくらいの情熱で
私はカメラのレンズを磨く
君を撮ってあげる
一番面白い顔を
若葉には早く
わきあがる薄桃色の陽炎
電線をわずかに揺らしていく
ケン玉がうまくなりたかったのは
ケン玉の大義名分を数え上げるためではなく
単純に お皿にのっかった感触が
ただ好きだったから
裂きかけた木蓮の花 白い花
その先で春が終わろうとも
君を撮ってあげる
一番馬鹿みたいな顔を
何の役にも立たないっていうことは
とても大事なことだろう
計算されたわけでもないのに
得をするわけでもないのに
咲きたくてたまらないわけでもないだろうに
木蓮の花は知らぬ間に白くにぎやかに咲いて
君を撮ってあげる
一番滑稽な顔を
一番うれしい顔を
少しはさびしい顔を
いつまでもケン玉のリズムで
とまらずにつなげていこう
---------------------------------
居眠り
通りすがりの家の垣根からはみ出ている
キンカンの黄色い粒々の見事さを
見上げて立ち止まり
心から褒めながら
振り返ってはまた褒める
子どもと一緒なら
どんなに後れをとっても平気だった
枝を摘まれすぎた梅の木は
もう今年は咲けそうもないしょげ方で
田んぼの真ん中に立っている
ああ かわいそうだね 来年は咲けるかな
そう言い合える優しさにほっとする
分析も鑑定も受け付けないほど大雑把に
すべてを丸呑みにしてあげるから
十二羽も群れて泳いでいる鴨
欄干から身を乗り出して 呼びかける
戻らない真昼の時間に
悪態をつきあえるうちが花
いつかその思いっきりな泣き顔も
後ろ向きで隠すようになるのだろう
おいしいパンを買って帰ろう
どこかの空き地で食べてもいいさ
座り心地のいい切り株のある場所を知っている
もっと隙だらけでいてあげる
肩にもたれて居眠り
うっかりよだれを垂らして
ごつんとぶつけた頭を笑い合って
ゆっくりまわっていこう
時計もない 小さな歩幅の小さな散歩
--------------------------------
シクラメン
JAの駐車場いっぱいに
鉢植えのシクラメン
一足はやく流れ出た春のピンク
道路を隔てたファミレスから
そちらの方ばかりながめていた
子どもたちは
ハンバーグとチキンが大好きだ
ということは
おせちなんかは食べやしない
いつも通りの買い物に
ちょっとは
古きしきたりに則った彩りを加え
年末はどこのお店も混んでいる
スパゲッティーはまだかな
ピザも食べてみたかったな
子どもたちは外で食べると
家で食べるより二倍も食べる
お野菜の端くれは
パパとママのお皿の上に
何食わぬ顔でひょいと
それにしても
見事に並べられたシクラメン
お正月には
どのご家庭にも一鉢とでもいうように
どうやら無事になんとかここまで
ささやかなお祝いは
年末にこそ
バトル鉛筆を転がして
明日のヒットポイントを比べ合おう
見ないふりをしていたけれど あちこちで
お正月へと期待は高まっていく
たとえば
ガラス磨きをしている人の
危なっかしく乗り出した半身なんかに
ジュースを飲んで
お水も飲んで
もうおなかいっぱい
駄菓子屋にぶら下がっていたあて袋の中身は
羽根を広げた丹頂鶴のカード
いい枝ぶりの松の木をバックに
JAの駐車場いっぱい
冬を追い越してきたピンク
ちゃんと見ておいてよ
いつか遠い先に
思い出すかもしれないピンク
----------------------------
散歩する足音
ハンバーガー店で少女は
精一杯の笑顔を売り続ける
はじめてパート勤めに出た主婦は
おろおろしながらレジを打つ
木材を肩に抱え上げた工事人は
白い息を首筋に巻き付けてゆっくりと歩き
携帯電話を耳に当てたサラリーマンは
信号に向かってしゃべり続ける
道端で首を縮めたタンポポ
そのそばで
咲き始めた白い水仙
無意味さを振り捨てて
立ち上がるめぐりに立ち
散歩する足音を
おなかにまで響かせて
生まれようとするものに
そのリズムを教え聞かせる
私は全部見てきたのだ
健やかであろうとして
探り寄せるそれぞれのリズム
望む方向に向かおうとするスピードで
太陽は確実に動いていく
叫びが似合う者は叫び
沈黙が似合う者は沈黙している
呼応する規則性を乱そうとしながら
階段をのぼり 階段を下り
出会った人とあいさつを交わす
新しいリズムをたたきだす
まずはこの散歩する足音から
----------------------------
花
どの花が咲き
どの花が散ったのか
隣あう花
明日咲くであろう花
今年の花と来年の花
それらの違いを
私にははっきりと区別することはできないが
子どもたちよ
君たちの咲き方の一部始終は
ちゃんとわかっている
色と香りの
移りゆく段階について
花弁の揺らぎ
か弱そうでいて
真っ直ぐに立ち上がろうとしている
その思いがけない力
再びは繰り返すことのない
たった一つの咲き方を
全体の中から取り出すことなく
はっきりと区別している
記憶し続けている
手をつなげばくすぐったい
そのくすぐったさも
花の傷つきやすさのように
-------------------------------
戦う意思
裏道にとめられた自転車のかごの中で
耳までふるわせている裸のチワワ
ちょっと先の日向では
黄色い蝋梅が道なりに
歯切れのいい香りをまき散らしている
無尽蔵というわけにはいかなくて
あちこちから力を借りてまわる
誰かのよくできた詩集に
思わず余計な差し出ぐちを書きこみ
酸っぱく尖った批評で殴りこむ
してみるとまだ
戦う意思は残っているらしい
使命とまでは振りかぶらないが
ひとつの傾向として
そこにとどまり続けるだろう
覚醒のための小細工
猫の寝床にネズミの隠し玉
そんな程度の茶目っ気でよければ
言葉の形に変えて
いつでも差し出してあげよう
見えすぎるほど
丁度いい陽射し
おかげでこの頃は
一人でいても大勢でいても
ハイビジョンな夢を見ている
---------------------------------
バーチャルリアリティー
ON
生の脳味噌を電脳へと切り替える
鋭く耳を立て
キャッチする電子音
セットアップ
ショートカットキーで
液晶の奥へとワープしていく
マウスにアイコンを食べさせ
急降下 夏の海中林
右手の動きに従って
望みどおりに現れる魚影
計算され尽くした進化
瞳が認識し得るスピードのぎりぎりを
冷静で確実な増殖
すべてをつまびらかに
水の命は膨れ上がっていく
歩きはじめる熱帯魚
手を汚さない支配
実体のない死
記憶容量は
はるかに人類を越えて
プログラムされた回路に
踊らされていく
果てのない海中林
あてどない探索
記憶の森の方角へ向かって
バグに食い荒らされそうなエサを
ふんだんにまき散らしながら
いつでも片手で
OFF
神の遊びのように
-----------------------------------
黒い軍艦
やがて黒い軍艦の上から
赤い朝日がのぼる
癒される側ではなく
癒す側となって
契約は
鋭く光る雲の縁を
滑らかにぼかすことから始まる
茶色がかった風景の広がり
両の手で 落ちかかるぬくもりを
すくいあげる
導かれていくような
鉄橋の曲がり具合
感情の近似値に添うことは
必ずしも正解ではない
否定と共生する肯定
雲の乱れのように
打ち消し合って
霞も靄も残さない
やがて黒い軍艦は
無音の砲を打ち鳴らし
斜めに降下していく
受け入れる
受け入れられるためではなく
突き崩す
黒い軍艦の推進力で
力強くもなく
傷を隠しながら
---------------------------------
古いアドレス帳
友人たちの住所を
地図の中に点で示し
そこから欄外まで線を引いて
電話番号をも書きこんだ
訪ねていくことも
電話をかけることも
めったにありはしなかったが
そこに彼らがいるというだけで
一人の夜の思いは和らいだ
学生時代の古いアドレス帳
その住所に
誰も長く住み続けることはできない
風呂屋の高い窓から先に暮れていく黄昏
さびれた蕎麦屋で読んだボロボロの漫画本
本当は知っていた
あの時の微笑みながらの「さよなら」は
もう二度と会わないかもしれない「さよなら」
それぞれに選んだ未来
Aはαに βはBに
いさぎよく糸を切って
たぶん今 話題にできるのは
倫理学でも詩学でもなく
ここにたどり着くまでの
曲がりくねった地図上の線
最良の結果として
最良の場所にやっと腰を落ち着けて
半分忘れかけた名前
年賀状を書く時だけ
取り出して懐かしく思い返している
(誰かの古いアドレス帳の中に
安らぎとしてあったかもしれない
私の名前と住所)
----------------------------------
美しいものを見た
一羽の鳩を見た
川へ雑排水を落とし込む宙ぶらりんの穴の中で
目を閉じてうずくまっていた 羽を逆立てて
斜めから夕陽が当たって
胸の鳥毛が赤紫に照り返していた
それだけの色ではなく
青にも黄色にも碧にも
不可視の色彩まで
すべて散光して見せていた
柿の木の下に
魚の背骨が転がっていた
野良猫に念入りにしゃぶられて
象形文字のように
細く地面にはりついていた
精緻な意匠
触れられることを恐れ
落ち葉の重ささえ支えかね
いっそ壊れてしまいたがって
あなたは今日どんな美しいものを見ただろう
あなたの語る山も川も木々も花も
私の知る山も川も木々も花も
おそらくはそれぞれに違い
触れ合うと同時に離れあう
ゆるやかな双曲線のように
行先の違う線上で
それぞれ違うものに心惹かれ
昔 鳩を飼いたかった
その鮮やかな胸毛ゆえに
昔 白い骨の一片を夕陽にかざした
その清浄な響きゆえに
私の美意識は今もその辺りに漂っている
あなたは私にどこまで近づいてくれるだろう
私はあなたにどこまで近づいていけるだろう
意味のある差を
そのまま差として保ちながら
--------------------------------
名前
命じられる
ここに魚の絵を描けと
どんな絵がよろしいでしょうか
それはおまえの好きなように
では好きなように
無意識の中の意識
眠ってしまいそうに集中して
一匹の跳ね飛ぶ魚を描きあげる
魚の上に濃紺の網の目をかぶせて
陶器の壺の上絵とする
よし これでいいだろう
では他のものにもこれと同じ絵を
承知いたしました これと同じ絵を
能うかぎり完成された姿であるように
やわらかく流れ出す姿であるように
願った筆の穂先は
どこまで誠実だっただろうか
正義に近い意義
ふたつの名前を持つ濃紺の魚は
ふたつの影に引き裂かれ
網の中でもがいている
淡くにじみながら
取り引きの場所には
ほころびかけた祝辞が並ぶだろう
ゴーストの魚は口を閉ざしたまま
法外な値札を掲げているだろう
命じられる
ここに鳥の絵を描けと
どんな絵がよろしいでしょうか
それはおまえの好きなように
では好きなように
無意識の中の意識
眠ってしまいそうに集中して
小枝にとまる三羽の雀を描く
雀たちに冬の薄日を降りかからせて
陶器の盆の上絵とする・・・
--------------------------------
生身の言葉
脳味噌から出っ張ったねじを締めていく
ねじ穴をつぶす限界まで
キシキシと回し尽くして
もうびくとも動かない最後の力
分かっている
それ以上回したら
脳味噌が噴き出してしまう
それもまた狙い通り
湯気をほかほかたてて
真っ先に噴き出すのは
きっと目立ちたがりの言語中枢で
体裁の枠を外された勢いのままに
生身の言葉を吐き散らすだろう
血をしたたらせながら
脳味噌の良識
ねじの締め加減は
人それぞれというわけで
限界基準を越えて
犯罪に近い善がまかり通る
思慮深い親切顔から
危険きわまりないダイレクトなストレート
さて この辺で
ねじを回し切って壊してしまおう
飛び出したほかほかの言語中枢
血のしたたる生身の言葉を振りかざし
狙いをつける・・・・・・
そこまでだ お遊びは
苦笑いしながら包帯を巻きつける
最低の語彙だって
うまいこと料理すれば
おいしくいただけるというものだよ
------------------------------------
澄む
上澄みだけを
注ぎ入れる
明るい半分だけを
切り取っていく
ヘドロにまみれた片手は
後ろ手に巧妙に隠して
表しすぎてはいけない
重いものは
その重さのままに沈ませ
かき回してはいけない
吐き出して
軽くなるという
たいした内容もない
吐瀉物なら
毒で色づけられた感嘆
それはたぶん
私の領分ではない
蒸溜を繰り返す
完全に色を消すまで
あやしむ隙さえ与えず
結果だけを済ませて
花の香りに似せれば
飲み干すことを
毛筋ほども
ためらわない
正統でもなく
少しねじれながら
ぎりぎりの濁りの近くを
ただよっていく
たゆたいを
なだめながら
ずる賢く
澄んだ領分にいて
------------------------------
朝の領域
ああ・・・と思うような
遠回りをして
結局それでよかったのだと
振り返る
よく拭われた朝
霜を乗せたナイフ
清浄は虚無に近い
そして私は
何を選んだのだろう
消毒した手を
汚すことなく
朝の光は
思う以上に白く
浅い角度をつけて
この部屋に入り込む
まだ
言い表せずにいる
黒の扉の中には
立ち入れない
私はまだ
朝の領域にいるのだろうか
屈みこむだけでは足りない
むしろ仰向けに倒れて
逆転の夜を刻みつける
全天を支配する
その尖った力で
際立った悪さえも
手中にできたなら!
---------------------------------
ねこのおしり
ねこのおしり
後ろ向きのおしり
丸くてでんとしたおしり
カエルみたいなおしり
黒光りした毛づや
みんなが触りにくる
ほっぺたをくっつける
折りたたんだ前足に
人差し指を突っ込む
ねこは迷惑そうに
ひげを動かし
やわらかい
あたたかい
気持ちいい
てのひらで撫でていると
うっとりが広がっていく
ぜんぶ黙って許してくれる
その貫禄に
吸い寄せられる
ねこのおしり
ふかふかのおしり
安心なおしり
もっといっぱい
さわらせて
------------------------------
ねこの肉球
かたいような
やわらかいような
押せばはねかえされる
しわもちょっとある
適当にあたたかい
少し動物くさい
黒豆みたいな肉球
なめてみたい感じ
----------------------------------
布団を干す
ぽかぽかの日向で
布団を干す
ベランダいっぱいに広げて
風もない空
だれに会う予定もない
自分のためだけに使い切れる時間
ぽかぽかの日向で
布団を干す
ふかふかにしてくれる
遠くからの光
私はこの場所で
自分だけに所属している
どこにいるよりも落ち着いて
自分を制御している
ぽかぽかの日向で
布団を干す
あたたかくもぐりこみあう
家族みんなの夜のために
それは
文句なしに素敵な仕事だろう
ぽかぽかの日向で
布団を干す
外へ追い詰められていく心についても
十分に学んできたつもりだ
もう別にどこでもいい
綿がふっくらとふくらんでいくのを
いつまでもながめていたい
ぽかぽかの日向で
布団を干す
太陽をいっぱいに吸い込んだ布団は
重力さえも和らげる
足先まであったかく眠らせて
軽々とした夢をみようね
---------------------------------
冬至
今日は冬至
お風呂にゆずを浮かべましょう
子どもはさっそく
ゆずをつかんで
香りの汁をとばし
皮をむき
種を取り出す
ぶよぶよのゆずを
お湯にしずめる
小さな手で握られて
ゆずはおもわず
小さな息をもらしてしまう
お風呂いっぱいゆずのかおり
ふやけた太陽
子どもはいつまでも
ゆずをこわし続けて
今日は冬至
ゆずを握りしめる力で
逃げて行った太陽を
もう一度取り戻す
----------------------------------
夢中
いつからだろう
視点が変わり
私は「親」の立場でしか物を言えなくなった
よい「親」であるか
しっかりした「親」であるか
そんなことばかりが問われて
小さく微笑んだまま羽目をはずせない
子どもに宛てたメッセージに名を借りて
私は「私」を取り戻そうとしている
つきつめて考え抜きたいことも
深めていきたい思いも
「いつも通り」でならしていくのはやめて
できるだけ正直に
「親」として保っていたバランスの支点も
思い切り自分の方へと引き寄せて
形のない不安を
組み伏していく実感
子どものために何をしてあげたとか
何を犠牲にしたとかではなく
青臭い言い方だけれど
すぐにでも走り出せる若々しさで
いさぎよく身をひるがえす
後ろ姿を「見せる」ためではなく
自分の「夢中」を追いかけるために
互角になろう
もっと夢を語って
もっとエゴイスティックに
どちらにせよ
「親らしさ」に
いつまでもしばられているなんて
ろくなものじゃないだろう?
--------------------------------------
想像力
そのマンションの下には
数か月前までは田んぼがあって
泥だらけの泥田坊が住んでいた
足の黄色い鳥たちが群れて
泥田坊をつつき出していた
遠くに広がる学校も校庭も
卒業した心で見れば
魔王の棲む豪奢な王宮のよう
悪意ある単語は
どう混ぜても色が汚いから
端っこの方に置いておけばいい
まず 色鮮やかな想像力!
林いっぱいに蔦が絡まっていて
それは横向きの子泣きじじいに見えるだろう?
赤と黒のチェック模様の日記帳を買ってきて
その1ページ目から百物語を書きつづろう
誰かの詳細な研究書類を読むよりも
まず 跳ね飛びそうな想像力!
こんな小さな頭脳では
わずか1パーセントの知識さえも
割り込む隙はなくて
しだれ柳が揺れていた川の土手も
コンクリートで固められ
河童たちのお皿が
ほら 割れたまま川の底に沈んでいる
まばたきの一瞬で逃げていく
君はもうすぐ忘れてしまうだろうか
公園で笑っていた丸い顔のピエロ
空から垂れた鉄の鎖もほころびて
砂場もジャングルジムも体温をなくした
すべり台の上から見上げると
もみじが透けて赤かったのに
その向こうに
もうだいだらぼっちも顔を出さない
悪意ある単語の入る隙もない
あやしい影を探しまわって
古い物置小屋の奥を覗きこむ
口が裂けた老婆が庖丁を研ぎ
雨降り小僧が笑いながら天井を歩き
三つ目入道が大きな足を突き出してくる
あの夕暮れに
もう一度強がったふりをしながら
やさしい妖怪たちを探しまわりたい
-------------------------------------
風の力
傘を振り回して
たたかっている
受け止めて
とらえて
引っ張り合う
押してくる力に向かって
ぐっと踏ん張る
ねじ伏せたい
よろけそうになりながらも
力だけを感じて
重さだけを感じて
体当たりを食らわせる
そのあと
一緒に流れてもみる
釣りあげられるように
高く舞い上がるビニール袋
冷たいはずなのに
冷たさを感じない
こすられた頬は赤く
立ち向かう力だけで
身一つで立っている
威嚇の音にひるみもせず
風の中に溶け入り
風を楽しみ
風を従える者となる
Comments